ポリトロープ球とレーン=エムデン方程式

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 天体の構造を理論的な側面から調べるにはいくつかの基礎方程式を解く必要があります。 ここでは、天体の構造についての有名な関係式であるレーン=エムデン方程式とその導出方法を見て行きたいと思います。

目次:


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天体の構造を記述する方程式

連続の式と静水圧平衡の式

 まずは天体内部の構造と質量の関係について立式します。 球対称な構造をしているガス球を考え、動径方向の座標を \(r\) とします。 ガス密度は半径の関数とし、\(\rho\!\left(r\right)\) と表します。 このとき、ある半径 \(r\) から内側にいる流体の全質量を \(\Mr\) と置くと、これは中心から \(r\) までの積分を使って \begin{align*} \Mr=\int_{0}^{r}4\pi r^{\prime2}\rho\!\left(r\right)dr^{\prime} \end{align*} と書くことができます。 この式は、半径が \(r^{\prime}\) で厚みが \(dr^{\prime}\) の薄い球殻の質量を 0 から \(r\) まで積分していることに対応しています。 つまり、中心から半径 \(r\) より内側に含んでいる質量を意味していて、enclosed mass と呼ばれることがあります。 日本語だと「内包質量」という表記がされる場合があります。 この式の両辺を \(r\) で微分して微分形で書き表すと、 \begin{align*} \frac{d\Mr}{dr}=4\pi r^{2}\rho\!\left(r\right) \end{align*} となります。 この式は連続の式 (continuity equation) の一種です。

 次に、天体内部での力の釣り合いを考えます。 天体内部は中心が最も高圧で、外に行くに従って (\(r\) が大きくなるに従って) 圧力は下がります。 そのため内側から外側へ向かう方向に、圧力勾配による力 (圧力勾配力) がはたらきます。 圧力勾配力は、圧力を \(p\) とすると \(\displaystyle{\frac{1}{\rho}\frac{dp}{dr}}\) となります。 一方、半径 \(r\) の所での重力は、\(\displaystyle{-\frac{G\Mr}{r^{2}}}\) と書けます。 \(G\) は万有引力定数です。 従って、天体が安定して存在している、つまり重力を圧力勾配力で支えて釣り合っているという状況は以下の式で表されます。 \begin{align*} \frac{1}{\rho}\frac{dp}{dr}=-\frac{G\Mr}{r^{2}} \end{align*} これは静水圧平衡の式です。 静水圧平衡と大気のスケールハイトのページで導出した静水圧平衡の式とは形が異なりますが、こちらは流体が球状になっているという効果も含んでいる式になっています。 大気が薄く、平板であるという仮定が成り立つ状況下では静水圧平衡と大気のスケールハイトの静水圧平衡の式となりますが、今回は天体の中心から外側までを考えているため、平板であるという仮定は成り立ちません。

 連続の式、静水圧平衡の式を解くことで、天体の内部構造を明らかにすることができます。 しかしこの段階では、独立変数が半径 \(r\) の所に、従属変数は密度 \(\rho\)、圧力 \(p\)、質量 \(\Mr\) の 3 つ、方程式は 2 つであるため解くことができません。 そのためもう一つ変数を結びつける式が必要となります。

ポリトロープ球

 ここで、ポリトロープ関係と呼ばれる関係を導入します。 これは、密度と圧力の間に \begin{align*} p=K\rho^{1+\frac{1}{N}} \end{align*} という関係があるとするものです。 ここで \(K\) と \(N\) は定数のパラメータであり、\(N\) のことをポリトロープ指数 (polytropic index) と呼びます。 ポリトロープ指数は天体の構造を決める重要なパラメータとなります。 この関係式で表される流体の球のことをポリトロープ球と呼びます。

 これで従属変数が 3 つ、方程式も 3 つ (連続の式、静水圧平衡の式、ポリトロープ関係) となったので、原理的には解けることになります。 天体内部の構造を決める為には、 \begin{align} \frac{d\Mr}{dr}=4\pi r^{2}\rho\!\left(r\right) \label{eq1} \end{align} \begin{align} \frac{1}{\rho}\frac{dp}{dr}=-\frac{G\Mr}{r^{2}} \label{eq2} \end{align} \begin{align} p=K\rho^{1+\frac{1}{N}} \label{eq3} \end{align} の 3 式を解けば良いということです。

レーン=エムデン方程式

レーン=エムデン方程式の導出

 まずは式 \eqref{eq1} と式 \eqref{eq2} から、\(\Mr\) を消去します。 式 \eqref{eq2} を式 \eqref{eq1} に代入すると、 \begin{align} \frac{d}{dr}\left(\frac{r^{2}}{\rho}\frac{dp}{dr}\right)=-4\pi Gr^{2}\rho \label{eq4} \end{align} となります。

 一方、\eqref{eq3} の両辺を \(r\) で微分すると \begin{align*} \frac{dp}{dr}=K\left(1+\frac{1}{N}\right)\rho^{\frac{1}{N}}\frac{d\rho}{dr} \end{align*} が得られます。 これを式 \eqref{eq4} に代入すると以下のようになります。 \begin{align} K\left(1+\frac{1}{N}\right)\frac{d}{dr}\left(r^{2}\rho^{\frac{1}{N}-1}\frac{d\rho}{dr}\right)=-4\pi Gr^{2}\rho \tag{4'} \label{eq4p} \end{align}

 ここで、無次元化した密度を導入します。 中心部、つまり \(r=0\) での密度を \(\rhoc\) と置き、無次元化した密度 \(\theta\) をポリトロープ指数を使って \begin{align} \rho=\rhoc\theta^{N} \label{eq5} \end{align} と置きます。 これを式 \eqref{eq3} に代入すると \begin{align*} p=K\rhoc^{1+\frac{1}{N}}\theta^{N\left(1+\frac{1}{N}\right)}=K\rhoc^{1+\frac{1}{N}}\theta^{N+1} \end{align*} となります。 一方、同じく式 \eqref{eq3} において、中心での密度 \(\rhoc\) と中心での圧力 \(\pc\) を用いると \begin{align} \pc=K\rhoc^{1+\frac{1}{N}} \tag{3'} \label{eq3p} \end{align} であることが分かるため、圧力は無次元化した密度とポリトロープ指数を使って \begin{align} p=\pc\theta^{N+1} \label{eq6} \end{align} と書くことができます。

 無次元化した密度と圧力を用いて、式 \eqref{eq4p} を \(\theta\) の式に置き換えます。 式 \eqref{eq5} の両辺を \(r\) で微分すると、 \begin{align*} \frac{d\rho}{dr}=\frac{d}{dr}\left(\rhoc\theta^{N}\right)=\rhoc N\theta^{N-1}\frac{d\theta}{dr} \end{align*} となります。 また、 \begin{align*} \rho^{\frac{1}{N}-1}=\rhoc^{\frac{1}{N}-1}\theta^{1-N} \end{align*} です。 これらを用いると式 \eqref{eq4p} は \begin{align*} K\left(1+\frac{1}{N}\right)\frac{d}{dr}\left(r^{2}\rhoc^{\frac{1}{N}-1}\theta^{1-N}\rhoc N\theta^{N-1}\frac{d\theta}{dr}\right)=-4\pi Gr^{2}\rhoc\theta^{N} \tag{4''} \label{eq4pp} \end{align*} となり、整理すると \begin{align*} \frac{K\left(N+1\right)\rhoc^{\frac{1}{N}-1}}{4\pi G}\frac{1}{r^{2}}\frac{d}{dr}\left(r^{2}\frac{d\theta}{dr}\right)=-\theta^{N} \end{align*} となります。 あるいは、式 \eqref{eq3p} を用いて \(K\) を消去すると \begin{align} \frac{\left(N+1\right)\pc}{4\pi G\rhoc^{2}}\frac{1}{r^{2}}\frac{d}{dr}\left(r^{2}\frac{d\theta}{dr}\right)=-\theta^{N} \tag{4'''} \label{eq4ppp} \end{align} と書くこともできます。

 ここで、左辺の係数部分を \begin{align*} \alpha^{2}=\frac{\left(N+1\right)\pc}{4\pi G\rhoc^{2}} \end{align*} と置きます。 これは長さの 2 乗の次元を持つ (つまり \(\alpha\) は長さの次元を持つ) ことがすぐに確かめられます。 これを用いると \begin{align} \frac{\alpha^{2}}{r^{2}}\frac{d}{dr}\left(r^{2}\frac{d\theta}{dr}\right)=-\theta^{N} \tag{4''''} \label{eq4pppp} \end{align} となります。

 ここまでで密度と圧力は無次元化してありましたが、ここで \(\alpha\) を用いて \(r\) も無次元化します。 無次元化した半径として、\(\xi\) を以下のように定義します。 \begin{align*} \xi=\frac{r}{\alpha} \end{align*} 無次元化した密度 \(\theta\) の \(r\) 微分は、次のように書き換えられます。 \begin{align*} \frac{d\theta}{dr}=\frac{d\theta}{d\xi}\frac{d\xi}{dr}=\frac{1}{\alpha}\frac{d\theta}{d\xi} \end{align*} またこの式から、微分演算子は \begin{align*} \frac{d}{dr}=\frac{1}{\alpha}\frac{d}{d\xi} \end{align*} となることも分かります。 これらを用いると、式 \eqref{eq4pppp} は以下のようにまとめることができます。 \begin{align*} \frac{1}{\xi^{2}}\frac{d}{d\xi}\left(\xi^{2}\frac{d\theta}{d\xi}\right)=-\theta^{N} \end{align*} この式は、無次元化した密度 \(\theta\)、無次元化した半径 \(\xi\) を結びつける式になっています。 従って、この式を解くことができれば密度と半径の関係が分かり、天体の構造を決定出来ることになります。

 この式はレーン=エムデン方程式 (Lane-Emden equation) として知られています。 また、この式の解はしばしばエムデン解と呼ばれます。

 天体の内部構造を記述するレーン=エムデン方程式は、以下のように書き表される。 \begin{align*} \frac{1}{\xi^{2}}\frac{d}{d\xi}\left(\xi^{2}\frac{d\theta}{d\xi}\right)=-\theta^{N} \end{align*}

ただし、\(\theta\) は無次元化した密度 \(\displaystyle{\rho=\rhoc\theta^{N}}\)、 \(\xi\) は無次元化した半径 \(\displaystyle{\xi=\frac{r}{\alpha}}\)、 \(\displaystyle{\alpha^{2}=\frac{\left(N+1\right)\pc}{4\pi G\rhoc^{2}}}\) である。
また、\(N\) はポリトロープ関係のポリトロープ指数である。

境界条件

 レーン=エムデン方程式は \(\xi\) の 2 階微分方程式になっているため、解を決定する為には境界条件が 2 つ必要です。 境界条件としては原点での値を与えます。

 まずは、式 \eqref{eq5} にあるように密度は中心で \(\rhoc\) となります。 つまり、中心では \(\theta=1\) となっている必要があります。 \(r=0\) は \(\xi=0\) に対応しているため、1 つ目の境界条件は 「\(\xi=0\) のとき \(\theta=1\)」 となることが分かります。

 また、中心では重力は 0 となり、圧力勾配力も 0 となります。 圧力勾配力が 0 であるということは、圧力勾配が 0 であることを意味しています。 密度と圧力は式 \eqref{eq3} のポリトロープ関係で結びつけられているので、圧力勾配が 0 であれば密度勾配も 0 になります。 当然、無次元化した密度の勾配も 0 となります。 そのため、2 つ目の境界条件は 「\(\xi=0\) のとき \(\displaystyle{\frac{d\theta}{d\xi}=0}\)」 となります。

 レーン=エムデン方程式の境界条件は、

\(\xi=0\) のとき \(\theta=1\)

\(\xi=0\) のとき \(\displaystyle{\frac{d\theta}{d\xi}=0}\)
である。

方程式の解

 レーン=エムデン方程式については、\(N=0,\,1,\,5\) の時は解析解が存在することが知られています。 それぞれ、

(i) \(N=0\) のとき \begin{align*} \theta\left(\xi\right)=1-\frac{1}{6}\xi^{2} \end{align*}

(ii) \(N=1\) のとき \begin{align*} \theta\left(\xi\right)=\frac{\sin\xi}{\xi} \end{align*}

(iii) \(N=5\) のとき \begin{align*} \theta\left(\xi\right)=\frac{1}{\sqrt{1+\frac{1}{3}\xi^{2}}} \end{align*}

となります。

 これら以外の一般の \(N\) に対しては、数値計算をして構造を決定する必要があります。

 また、\(\xi\) は半径、\(\theta\) は密度に対応しているものであるため、それぞれ 0 以上の値を持ちます。 \(\theta\) は中心では 1 であり、そこから外側へ向かって減少して行く形になっていることが分かります。 \(\theta\) が 0 になる場所は密度と圧力が 0 になる距離であり、天体の "表面" に対応しています。 そこより先も関数は値を持ちますが、物理的に意味があるのは最初に \(\theta\) が 0 になる距離までです。

 上の解析解を見ると分かりますが、\(N=0\) と \(N=1\) の時は有限の距離で \(\theta\) が 0 になりますが、\(N=5\) の時は \(\theta\) が 0 になるのは \(\xi\) が無限大の極限であり、半径が無限大であることを意味します。 解析解の導出方法や解の性質については、別の所で紹介したいと思います。





参考文献

高原文郎「宇宙物理学」(朝倉書店)

2015年11月18日
2017年06月05日 更新
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