太陽系外惑星の名前

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 しばしば、太陽系外惑星の発見がニュースになる事があります。 その時に耳にする系外惑星の名前は、「かに座55番星e」や「グリーゼ876d」という名前であったり、「HD 209458b」という英数字の記号のような名前であったりします。

 このような無機質に見える系外惑星の名前は、一体どのように決まっているのでしょうか? ここでは、系外惑星の名前の付け方や、名前の持っている意味について紹介したいと思います。

 また最近になって、太陽系外惑星の名称を公募しようという動きも始まりました。 これについても最後に触れたいと思います。

目次:


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太陽系の惑星と太陽系外惑星

 太陽系には惑星が 8 個 (水星、金星、地球、火星、木星、土星、天王星、海王星) あります。 かつては冥王星も惑星に数えられていましたが、2006 年の国際天文学連合 (The International Astronomical Union, IAU) の会合で太陽系の惑星の定義が定められ、冥王星は惑星から外れて「準惑星」(dwarf planet) に再分類されることとなりました。

 正式に科学的な惑星の条件が定義されたのは 2006 年が初めてですが、太陽系の惑星に関する認識は時代によって異なり、例えば現在は準惑星の一つと見なされているケレス (火星と木星の間の小惑星帯、メインベルトに存在) はかつて惑星と認識されていた時期がありました。 ケレスの他にも、比較的大きいサイズの小惑星のいくつかは惑星に数えられていた事がありましたが、発見個数が増えるうちに、それらは小惑星という一つのグループに属するべきという認識が高まり、惑星からは外されることになりました。 冥王星に関しても、周囲に同程度の質量や同じような軌道を持つ天体が複数発見され始め、惑星とは別のグループに属するべきという意見が多かった事が惑星から外される原因だったため、ケレスなどが惑星から外された経緯と非常に似ています。

 2006 年に IAU で決められた、太陽系の惑星として認められるための条件は、

  1. 太陽の周りを公転している
  2. 静水圧平衡状態に達するだけの十分な質量を持つ
  3. 軌道上から他の天体を一掃している
の 3 つを全て満たしている場合です。

 2 つめの条件は、簡単に言うと自己重力でまとまって (ほぼ) 球形になるだけの質量があるという事です。 質量が軽ければいびつな形状のままであり、惑星の定義からは外れます。 なお、静水圧平衡状態でも自転が高速であれば潰れた楕円体になるため、必ずしも「球形であること」は条件ではありません。

 3 つ目の条件が、まさに冥王星が惑星から外れる原因となったものです。 その軌道上で主要で支配的な重力源であり、付近の天体を排除するか吸収するなどして軌道上から一掃してしまった場合のみ、惑星と認められます。 冥王星の場合は付近に似たようなサイズの天体が多数存在し、軌道上から他の天体を一掃しているとは到底言えず、惑星の定義を満たせないことになります。 かつて惑星とされていて、後に小惑星に分類されたケレスなどいくつかのメインベルトの小惑星も、この 3 つ目の条件によって惑星から除外されることになります。

 ところで、1 つ目の条件を見ると分かるように、この定義は「太陽系の惑星」の定義です。 太陽以外の天体の周りを公転する天体については規定が無く、従って太陽系外の惑星に関する定義も明確には決まっていません。

 暫定的な定義 (もしくは天文学者の間での慣習) としては、

の 2 条件を満たすものを (太陽系外) 惑星と呼んでいます。 重水素核融合を起こすには木星の 13 倍程度の質量が必要なので、観測から判明した質量が 13 木星質量以下の天体は惑星と見なされます。 なお、重水素核融合を起こすだけの質量がある場合は、「褐色矮星 (brown dwarf)」と呼ばれます。

 この暫定的な定義に従うと、星の周囲を公転していない、単独で存在する天体は惑星とは呼ぶべきではないことになります。 しかし、星の周囲を公転していない、惑星程度の質量を持つ天体も発見されています。 このような天体については、準褐色矮星 (sub-brown dwarf) という呼び方が推奨されていますが、「自由浮遊惑星 (あるいは浮遊惑星)」(rogue planet, free-floating planet) という名称で呼ばれることもあります。 あるいは、より一般的に「惑星質量天体 (planetary-mass object)」という呼び名で呼ばれることもあります。

 また、「星形成的な形成過程」で形成されたものは準褐色矮星、「惑星形成的な形成過程」で形成された後に、他の惑星などとの相互作用によって系から弾き出されたものは浮遊惑星と、その天体の形成過程で分けるべきという意見もあり、この辺りの用語には注意が必要です。 このあたりの区分については議論がされていますが、まだ明確な戦引きを決定するまでには至っていません。

 現在のところ、星の周りを回る 13 木星質量以下の天体の場合は、太陽系外惑星と見なされます。

 既に上にも出ていますが、太陽系外惑星はしばしば「系外惑星」と表記されます。 英語では太陽系外惑星は、"extrasolar planet" となりますが、略された形である "exoplanet" と表記する場合が多いです。

太陽系外惑星の命名法

 それでは、本題の太陽系外惑星の名前の付け方についてです。

 結論から先に言うと、系外惑星の命名法については公的機関が定めた規則は特にありませんが、慣習的なルールはあり、それに従って名前が付けられています。 命名法は、連星の命名法を応用したものが用いられています。 具体的には以下の通りです。

ある天体の周りに惑星が発見された場合、惑星の名前は、その中心天体の名前の後に"b"を付け、

[中心天体の名前] b

となる。
惑星が複数ある場合は、発見順に b, c, d, ...と小文字のアルファベットを付ける。

 例えば、「かに座55番星」という恒星の周りに惑星が発見された場合は、「かに座55番星b」という名前が付けられます。 2 つ目の惑星が発見されれば「かに座55番星c」、さらに 3 つ目が発見されれば「かに座55番星d」となります。

 注意したいのが、小文字のアルファベットは惑星の「発見順」であって、並んでいる順番ではない、ということです。 従って、各惑星が並んでいる順番は、その惑星のデータベースを当たってみないと分かりません。 なお、一連の観測で複数の惑星が同時に発見された場合は、内側から b, c, d, ...と付けられます。 そのため惑星の並び順とアルファベット順が一致している例もしばしばあります。


 さて、命名のルール自体は非常にシンプルで、発見された順に中心星の名前の後に b からアルファベットを振る、というものでした。 ルールは分かりましたが、肝心の「グリーゼ876d」や「HD 209458b」という名前やアルファベット、数字自体は一体どこから来たのでしょうか?

 明るい恒星の場合は独自の名称を持っている場合が多いですが、暗い星の場合は、その星が集録されている星表の名前と、その中での番号を合わせて呼ばれているものがほとんどです。 系外惑星の名前でよく聞く、「グリーゼ」や「HD」というのも、星表の名前です。 また、従来から存在した星表の他に、新たに系外惑星の捜索・観測プロジェクト名や観測に使われた望遠鏡の名称を冠した星表の名前で呼ばれることもあります。

 次の項目では、系外惑星の名称としてしばしば聞く機会がある名前の由来について紹介します。 既に紹介した通り、「中心天体の名前 + b 以降の小文字のアルファベット」、というのが慣習的な命名ルールでした。 そのためここで紹介するのは、中心天体の名前がどう決まっているのか、ということでもあります。 大きく分けると、従来からあった名称や星表での名称を用いる場合、系外惑星の捜索・発見プロジェクト名や、観測に用いた望遠鏡名を用いているものの 2 種類になります。

様々な系外惑星の名称の由来:星表の名称編

 ここでは、恒星に従来から付いていた固有の名称や、様々な星表 (カタログ) の名前に b, c, d, ...を付けて惑星名にしている例を、星表の簡単な由来と共に紹介します。

恒星の固有名

 比較的明るい恒星には固有名が付けられています。 「シリウス」や「ベテルギウス」、「アンタレス」といった、しばしば耳にする星の名前が固有名です。 固有名を持っている明るい恒星の周りに惑星が発見された場合は、その固有名の後にアルファベットを付けたものが惑星の名前になります。

フォーマルハウトb (Fomalhaut b)
ポルックスb (Pollux b)

 固有名が付けられている恒星の回りを惑星が回っている例は少なく、通常の固有名+b で呼ばれている惑星は 2014 年 8 月の時点ではフォーマルハウトb とポルックスb の 2 例のみでしたが、2015 年 8 月になってアルデバランの周りにアルデバランb の存在が確認されたため、合計 3 例になっています (2017 年 6 月時点)。アルデバランは 1993 年に視線速度法で惑星の「検出」が報告されていましたが、のちにこれはアルデバラン自体の変動によるものだったと判明しています。

 ただし、ポルックスbの名称については、The Extrasolar Planets EncyclopaediaNASA Exoplanet Archive では HD番号を用いた「HD 62509b」という名前で、Exoplanet Orbit Database ではバイエル符号を用いた beta Geminorum b (beta Gem b, ふたご座ベータ星b) という名称で登録されています。

 その他の例としては、

カプタイン星c (Kapteyn c)

があります。 カプタイン星は太陽系に近い赤色矮星で、近い恒星ですが暗いため肉眼では観測出来ません。 しかし望遠鏡による観測で、ヤコブス・カプタインによって初めて発見されたため、カプタイン星という名前が付けられています。 視線速度法による検出でカプタイン星b と c の 2 つの惑星の検出が報告されましたが、その後カプタイン星b の方は恒星活動に起因するシグナルだったとして検出は否定されています。

 肉眼では観測出来ないものの簡単な望遠鏡で観測出来るような恒星には、カプタイン星のように発見者個人の名前が付けられている例があります (バーナード星など、太陽系近傍の赤色矮星に多い)。

 その他には、

プロキシマ・ケンタウリb (プロキシマb) (Proxima Centauri b or Proxima b)

があります. プロキシマ・ケンタウリは太陽系から最も近い恒星で、2016 年 8 月に視線速度法による系外惑星の検出が報告されました. プロキシマ・ケンタウリは三重連星であるケンタウルス座アルファ星系にあり、ケンタウルス座アルファ星A (あるいはアルファ・ケンタウリA) とケンタウルス座アルファ星B (アルファ・ケンタウリB) の連星の周りを公転している最も小さい恒星がプロキシマ・ケンタウリです。 なお,ケンタウルス座アルファ星B の周りには,2012 年に惑星 (ケンタウルス座アルファ星Bb) が存在するという報告がされていましたが,2015 年になってシグナルは惑星由来ではないことが指摘され,この系外惑星の存在は幻となりました。

バイエル符号

 恒星の名前には、「星座名 + ギリシャ文字」で表されているものがあります。 このような恒星の命名は「バイエル符号 (Bayer designation)」と呼ばれます。 ドイツの天文学者のヨハン・バイエルが最初に定めた名前で、その後に他の天文学者によって改良が加えられています。 オリジナルのバイエル符号では、星座名の後に付記するのはギリシャ文字に限らず、ギリシャ文字を使い果たした後はアルファベット (大文字・小文字含む) も付記しますが、\(\omega\) の次は A、その次が b, c, ...と続き、z の次は B, C, ...と続いて Q で終わり ( R 以降は使用しない) と、ルールはやや複雑です。 また、現在はギリシャ文字までのみしか使わないケースが多いです。

 バイエル符号は、非常に大雑把には各星座の中で明るい順に \(\alpha\), \(\beta\), \(\gamma\), ...と付けられていますが、例外も非常に多く、必ずしも明るい順に並んでいるとは限りません。 星座の分割や統合に伴って \(\alpha\) 星が存在しない星座があったり、\(\alpha\) 星より \(\beta\) 星の方が明るい場合もあります。 また明るさの測定精度が高くない時代のものなので、同じ程度の等級の場合は単に並んでいる順番に付けられている場合もあり、更には何の順番なのか不明なものもあります。

 バイエル符号で呼ばれている恒星の周りに惑星が発見されている例には以下のものがあります。

例:
がか座ベータ星b (beta Pictoris b, beta Pic b)
うしかい座タウ星b (tau Boötis b, tau Boo b)

アルゲランダー記法

 バイエル符号は、「星座名 + ギリシャ文字」の組み合わせで恒星を表すものでしたが、同様に星座名に何らかの文字を付記して恒星名とする場合は他にもあります。

 変光星の命名法に「アルゲランダー記法 (Argelander designation)」というものがあり、星座名の後に大文字のアルファベット、あるいは大文字のアルファベット + 数字を付記します。 これは、ドイツの天文学者であるフリードリヒ・ヴィルヘルム・アルゲランダーが定めた、変光星についての命名法です。 付記するアルファベットと数字の規則は複雑で、変光が確認された順に、R, S, ..., Z と付き、その次が RR, RS, ..., ZZ と続き、さらにそのあとはAA, AB, ..., AZ, BB, BC, ..., BZ, CC, ...と付けて行き、QZ まで続きます(ただし、J は使用しません)。 その後、QZ (先頭から 334 番目) の次である 335 番目以降は、V335, V336, ...という順に付けて行きます。 この "V" は変光星の "variable star" から採られています。 中途半端なアルファベットで区切られているのは、バイエル符号の命名ルールとの対応をさせているものと思われますが、それにしても複雑です。

 また、バイエル符号で既に「星座名 + ギリシャ文字」の名前が付いているものにはアルゲランダー記法の名前は与えられませんが、バイエル符号でもギリシャ文字を使い果たした後の「星座名 + アルファベット」が付いているものには、重複してアルゲランダー記法による名称も与えられています。

 アルゲランダー記法で名前が与えられた星の周りの系外惑星の例には以下のようなものがあります。

例:
ペガスス座HN星b (HN Pegasi b, HN Peg b)
ペガスス座V391星b (V391 Pegasi b, V391 Peg b)
ちょうこくぐ座RR星b (RR Caeli b, RR Cae b)

フラムスティード番号

 恒星の名前に星座名を用いるものにはバイエル符号とアルゲランダー記法の他にもまだあります。 「星座名 + 数字」の形になっているものがあり、これは「フラムスティード番号 (Flamsteed designation)」と呼ばれます。 イギリスの天文学者であるジョン・フラムスティードによって定められたものです。

 命名法の思想はバイエル符号と似ていますが、こちらは恒星の明るさには関係なく、西側の天体から順番に番号が振られています。 また、一部の例外を除けばイギリスから観測出来る恒星だけに番号が振られているのも特徴の一つです。 そのため、南天の恒星のうちイギリスから見えないものにはフラムスティード番号は振られていない場合がほとんどです。

 命名法から見ても分かる通り、バイエル符号と重複するものが多くあります。 フラムスティード番号を持ちつつバイエル符号も持つ場合は、バイエル符号での呼び名をよく使う傾向にあります。

 フラムスティード番号で名前が与えられた星の周りの系外惑星の例には以下のようなものがあります。

例:
ペガスス座51番星b (51 Pegasi b, 51 Peg b)
かに座55番星e (55 Cancri b, 55 Cnc b)
アンドロメダ座14番星b (14 Andromedae b, 14 And b)

 初めて発見された太陽系外惑星は、ペガスス座51番星 (51 Pegasi) の周りを公転するペガスス座51番星b (51 Pegasi b) で、発見は 1995 年のことでした (より正確には、主系列星の周りを公転する太陽系外惑星の初めての発見)。

 バイエル符号、アルゲランダー記法、フラムスティード番号の 3 つは、いずれも「星座名 + (文字)」という形で表されます。 従って、その天体の周りに惑星が発見されれば、「星座名 + (文字)b」という名称になります。 どれも紛らわしいですが、おおまかには、ギリシャ文字のものはバイエル符号由来、アルファベットかアルファベット + 数字のものはアルゲランダー記法由来、数字のみの場合はフラムスティード番号由来の名称です。

グリーゼ近傍恒星カタログ

 ドイツの天文学者ヴィルヘルム・グリーゼがまとめた、太陽系近傍の星表を「グリーゼ近傍恒星カタログ (Gliese Catalogue of Nearby Stars)」と呼びます。

 一番始めに出版されたグリーゼ近傍恒星カタログには、地球から 20 パーセク (65.23 光年) 以内の、比較的近傍にある恒星が収録されています。 この星表では、赤経の順番に 1 - 915 までの恒星が並んでいます。 この星表に収録されている恒星を、「グリーゼ + 数字」で表します。 例えば星表の 581 番目の恒星であれば「グリーゼ581 (Gliese 581, Gl 581)」と表記されます。

 後に 22 パーセクまで収録する範囲を広げ、それに伴い収録個数も 1529 個に増えていますが、これまでの番号を変更しないために小数点以下の枝番を付けて、同じく赤経順に並べています。 そのためこの版での番号は、1.0 - 915.0 となります。

 さらにその後 25 パーセク (81.54 光年) まで範囲を広げた改訂版が出されたのち、ヴィルヘルム・グリーゼと同じくドイツの天文学者ハルトムート・ヤーライスの 2 人でさらに拡張した星表を出版しています。 こちらは両名の名前を取って「グリーゼ・ヤーライスカタログ (Gliese–Jahreiß catalogue, GJ catalogue)」と呼ばれています。 こちらの版では、新たに 1000 番台以降と 2000 番台以降の名前が付けられています。 近傍の恒星と確定したものは 1000 番台、近傍だと疑われるものには 2000 番台の数字が与えられています。

グリーゼ・ヤーライスカタログに収録されている恒星の場合、「GJ + 数字」、例えば「GJ 1214」などの形で表します。

 グリーゼ近傍恒星カタログ、グリーゼ・ヤーライスカタログの名前が入った系外惑星の例には以下のようなものがあります。

例:
グリーゼ876b (Gliese 876b, Gl 876b)
グリーゼ581b (Gliese 581b, Gl 581b)
GJ 27.1b
GJ 1214b

 初期のグリーゼ近傍恒星カタログに収録されている恒星については、「グリーゼXXX (Gliese XXX, Gl XXX)」という名前が使われている場合が多く、後のグリーゼ・ヤーライスカタログ以降に新しく収録されている恒星については、「GJ XXXX」という名前が使われています。 例えば、「グリーゼ876」は前者、「GJ 1214」は後者に相当します。 しかし、グリーゼ表記と GJ 表記は混じっている事も多く、系外惑星をまとめているカタログでも表記が異なる場合があります。 例えば、The Extrasolar Planets Encyclopaedia では "Gliese" 表記と "GJ" 表記は別々で扱われていますが、Exoplanet Orbit Database では全て "GJ" 表記に統一されています。 また、NASA Exoplanet Archive でも、"GJ" 表記に統一されています。

 従って、「グリーゼXXXb (Gliese XXXb, Gl XXXb)」という表記の系外惑星の場合は、「GJ XXXb」という表し方になっている場合も多いため注意が必要です。 逆に、GJ 1214b のように、GJ 表記が一般的なものに関しては、「グリーゼ1214b」と表記される事はほとんどありません。

 グリーゼ近傍恒星カタログとグリーゼ・ヤーライスカタログは、その名にある通り太陽系近傍の恒星を収録しています。 25 パーセク (81.54光年) 以内の恒星が収録されているため、グリーゼ番号や GJ 番号が付いている天体は、比較的太陽系に近い恒星であるということが分かります。 距離が近いという事は、観測もしやすい事を意味します。 そのため、グリーゼ近傍恒星カタログに収録されている天体は系外惑星探査の対象となりやすくなり、そのうちのいくつかに惑星が発見されています。

ヘンリー・ドレイパーカタログ

 グリーゼ近傍恒星カタログと同じく良く見かける天体名に、「HD + 数字」という表記のものがあります。 こちらも星表の名称が由来であり、「ヘンリー・ドレイパーカタログ (Henry Draper Catalogue)」という星表がその名称の元になっています。

 ヘンリー・ドレイパーカタログの名称は、アメリカの医者・天文学者であるヘンリー・ドレイパーから採られていますが、カタログを編纂したのはドレイパーではありません。 ドレイパーは天文写真を用いた研究の先駆者であり、1872 年に恒星のスペクトル線の撮影に成功し、その後亡くなるまでに 100 を超える天体のスペクトル写真を撮影しています。

 ドレイパーの死後、同じくアメリカの天文学者でハーバード大学天文台の台長だったエドワード・ピッカリングが、写真による恒星の分光学についての研究を進めました。 ピッカリングの監修の元、ハーバード大学天文台に所属していた人達によって星表が編纂されました。 ドレイパーの未亡人がこの研究に興味を示して資金を提供したため、星表にはドレイパーの名前が付けられる事となりました。

 グリーゼ近傍恒星カタログの基準は太陽系からの距離でしたが、ヘンリー・ドレイパーカタログの場合は見かけの明るさを基準に編纂されています。 オリジナルの星表では、見かけの写真等級が 9 等よりも明るいものが収録され、その数は 225300 個に及びます。 全天の恒星をカバーしていて、番号はグリーゼ近傍恒星カタログと同様に赤経順に並べられています。 ヘンリー・ドレイパーカタログは、初めて恒星のスペクトル別に分類をした星表としても知られています。

 後により暗い恒星も収録した拡張版が出版され、合計で 359083 個もの恒星が収録されています。

 ヘンリー・ドレイパーカタログでの名前が付いた系外惑星の例には以下のようなものがあります。

例:
HD 8535b
HD 10180b
HD 189733b
HD 209458b

 このように、ヘンリー・ドレイパーカタログでの名前は、HD の後に最大 6 桁の数字が並ぶものになります。 日本語で「グリーゼ」と表記する事も多いグリーゼ近傍恒星カタログでの名称とは違い、日本語でも「HD」の表記しか用いず、より記号的で無機質な名称に見えます。

 カタログでの番号が 1 - 225300 のオリジナル版から収録されているものは「HD」、その後の拡張版 "Henry Draper Extension" で追加された 225301 - 272150 のものは「HDE」、さらに拡張された "Henry Draper Extension Charts" で追加された 272151 - 359083 のものは「HDEC」を付けることになっていますが、番号はオリジナル版から拡張版まで連続的に振られており、混同の心配が無い場合は「HD」のみを使用する場合が多いです。 (例えば HD 330075 とその惑星 HD 330075b など)

 先述の通り、ヘンリー・ドレイパーカタログに収録されている恒星は、見かけの明るさが基準になっています。 そのため、この星表に収録されているということは、おおむね写真での等級が 9 等級よりも小さい (=明るい) ということになります。 明るい天体であれば観測もしやすく、系外惑星探査もしやすいため、グリーゼ近傍恒星カタログの恒星と並んで系外惑星探査の対象になりやすくなります。

 実際、HD 189733b や HD 209458b などは様々な手法で非常に多くの観測が行われています。 この 2 つは恒星に非常に近い軌道を公転する巨大ガス惑星、いわゆるホットジュピター (hot Jupiter)であり、その質量や半径、軌道周期はもとより、大気組成や大気構造、大気の散逸の様子まで観測されています。

ヒッパルコス星表

 多数の天体をカタログとして編纂する作業は近年にも行われています。 地上望遠鏡を用いた従来の観測よりも、宇宙空間から宇宙望遠鏡で観測した方がより精度良く観測する事が可能です。 欧州宇宙機関が打ち上げた位置天文衛星ヒッパルコス (Hipparcos) は、多数の恒星の正確な年周視差を測定し、それら 118218 個をまとめたものは「ヒッパルコス星表 (Hipparcos catalogue)」と呼ばれています。 ヒッパルコス星表は 1997 年に公開されました。

 ヒッパルコス星表での名前が付いた系外惑星の例には以下のようなものがあります。

例:
HIP 2247b
HIP 14810b
HIP 57274d

 ヒッパルコス星表の天体は、「HIP」に最大 6 桁の番号を付けた名前で表されます。

ティコ星表

 上記のヒッパルコス星表の編纂と平行して、「ティコ星表 (Tycho catalogue)」の編纂も行われています。 同じくヒッパルコス衛星のデータを用いていますが、こちらはヒッパルコス衛星よりも1桁多い、1058332 個の恒星のデータが収録されています。 ヒッパルコス星表のデータ数が少ないのは、ヒッパルコス星表には精度の高いものを厳選して収録しているからです。 ティコ星表も、ヒッパルコス星表と同じ 1997 年に公開されました。 また、さらに収録個数を増やした「ティコ第二星表 (Tycho-2 catalogue)」が 2000 年に公開されています。 こちらの収録個数は更に多い、2539913 個となっています。

 ティコ星表での名前が付いた系外惑星の例には以下のようなものがあります。

例:
TYC 1422-614-1b
TYC 1422-614-1c

 ティコ星表の天体の名称は、ティコ星表を示す「TYC」の後に、恒星が存在する領域を示す最大 4 桁の数字と、その領域内での通し番号を示す最大 5 桁の数字、最後に識別番号を表す 1 桁の数字(大抵の場合は 1)から成っています。 ティコ第二星表でも命名法は同じです。 恒星の領域を示す番号は、後に出てくる「ガイド星表」と同一のものを使用しています。

掃天星表

 「掃天星表 (Durchmusterung)」、あるいは「ボン掃天星表 (Bonner Durchmusterung)」は、10 等級程度までの明るさを持つ全天の天体を、325000 個収録した星表です。 1859 年から 1903 年にかけて編纂されました。 ドイツのボン天文台によって編纂されたためこのような名称になっています。 "Durchmusterung" は英語では "run-through examination" という意味があります。

 掃天星表の名前が使われている系外惑星は、

例:
BD+15 2940b
BD-06 1339c
BD+20 2457b

 などがあります。

 掃天星表に収録されている天体の名称は、ボン掃天星表の頭文字から先頭に「BD」が付きます。 その次にあるプラスかマイナスと 2 桁の数値は、赤緯を表しています。 その後の数値は通し番号です。

 「BD-06 1339」を例にとると、"-06" の部分は、この天体は赤緯 -6° から -7° の間にいるということを表しています。 さらに、"1339" の部分は、赤緯 -6° から -7° の間にある天体を、赤経 0h から順に数えて行った時に 1339 番目になる、ということを意味しています。

 赤経と赤緯については、2MASS の項目で簡単に紹介しています。

 拡張版に、コルドバ掃天星表 (Cordoba Durchmusterung)、ケープ写真掃天星表 (Cape Photographic Durchmusterung) があります。 両者ともに赤緯 + 通し番号で名前が付きますが、コルドバ掃天星表に収録されているものは「CD」、ケープ写真掃天星表に収録されているものは「CPD」を BD の代わりに付けます。

その他

輝星目録

 6.5 等よりも明るい恒星を収録している「輝星目録 (Bright Star Catalogue)」という星表があります。 "Yale Bright Star Catalogue" という名称でも知られています。 カタログ通りの天体名だと「BS + 数字」という恒星の名称になりますが、輝星目録に関係の深いハーバード修正測光カタログ (Harvard Revised Photometry Catalogue) から取って「HR + 数字」という名前にするのが一般的です。 数字は最大 4 桁です。

 輝星目録には 9110 個の天体が収録されていて、そのうち 9096 個が恒星、10 個が新星か超新星、4 個が星団です。

 輝星目録の名前が使われている系外惑星は、

例:
HR 810b
HR 8799b
HR 8799c

 などがあります。

ガイド星表

 ハッブル宇宙望遠鏡 (Hubble Space Telescope) の観測のためにまとめられた星表が「ガイド星表 (Guide Star Catalog)」、または「ハッブル宇宙望遠鏡ガイド天体表 (Hubble Space Telescope, Guide Catalog)」です。 GSC-I には、視等級が 6 - 15 の約 20000000 個の天体が収められ、GSC-II には視等級が 21 までの 9億4559万2683個の天体が収められています。 「GSC (数字)-(数字)」という名前が付きます。 "GSC" は "Guide Star Catalog" の頭文字です。 前半の数字は全天の領域を表す番号、後半の数字はその領域内での通し番号を表す番号です。 ガイド星表で使われている全天の領域を表す番号は、先に出て来たヒッパルコス星表とティコ星表でも使われています。

 ガイド星表の名前が使われている系外惑星は、

GSC 06214-00210b

があります。

ニュージェネラルカタログ(NGC)

 「ニュージェネラルカタログ (New General Catalogue, NGC)」は、恒星のカタログではなく、7840 個の銀河や星雲、星団をまとめたカタログです。 このカタログに収録されている銀河や星雲、星団には「NGC XXXX」と最大 4 桁の番号を持った名前が付けられます。

 ニュージェネラルカタログに収録されている星団をさらに詳細に観測し、発見された恒星一つ一つに名前をつける時は、その星団の名前にさらに通し番号を付けます。 また、星団の観測が複数ある場合は、どの観測によってまとめられた番号なのかを明記するため、星団名の後にアルファベット数文字の符号を付け、そのあとに通し番号を付けることもあります。 その中の恒星に惑星が発見されれば、"b" などを付けたものが惑星名になります。

 ニュージェネラルカタログ由来の名前が使われている系外惑星は、

例:
NGC 4349 127b
NGC 2682 Sand 364b
NGC 2682 YBP 1514b

 などがあります。

 例えば「NGC 4349 127b」の場合は、まずニュージェネラルカタログに登録されている「NGC 4349」という散開星団があり、それを詳細に観測して星団を構成している天体を同定し、番号が振られます。その中の「NGC 4349 127」に惑星が発見された、ということです。

 例に挙げた 3 つのうち 2 つ目と 3 つ目は、星団名 (NGC 2682) の後に符号がついています。 "Sand" は "Sanders" の略で、この星団を観測した人物である Sanders の名前から来ています。 "YBP" は "Yadav, Bedin, Piotto" から来ており、こちらもこの星団を観測したグループのうち 3 名の頭文字から採られています。

様々な系外惑星の名称の由来:観測プロジェクト名編

 ここでは、系外惑星の観測プロジェクトや、観測に用いられた望遠鏡の名前が系外惑星の名称 (およびその中心星の名称) に用いられているものを紹介します。 こちらも、そのプロジェクトに応じたカタログを作ってその中に収録されているという点では、何らかの星表に収録されていると言えますが、従来あった星表ではなく近年の系外惑星観測プロジェクトごとの星表になっているという点で、別扱いとしています。

 このような場合は、観測プロジェクト名での名称が付く以前に既に発見されているものもあるため、別の (系外惑星探査とは無関係の) 観測プロジェクトによる名称が既に付いている場合も多いです。

COROT

 COROT は、フランス国立宇宙研究センターが主導し、欧州宇宙機関 (Europian Space Agency, ESA) によって 2006 年 12 月に打ち上げられた宇宙望遠鏡です。 日本語では「コロー」発音・表記する場合が多いですが、「コロ」との発音・表記もあります。

 衛星の名称は、フランス語の "COnvection ROtation et Transits planétaires"、英語では "COnvection ROtation and planetary Transits" から採られていて、日本語に直訳すると「対流、回転と惑星通過」となります。 その名称の通り、恒星での対流や回転、振動などの運動に起因する恒星の微小な光度変化を捉え、星震学 (asteroseismology) についての研究を発展させる事と、惑星が恒星面を通過する時に光を遮る、トランジット現象を捉える事を目的としています。 COROT は、系外惑星をトランジット法で検出する事を目的にものとしては初めての人工衛星 (あるいは宇宙機) で、宇宙空間からのトランジット観測に関して先駆的な存在と言えます。

 星震学というのは、太陽の表面振動を観測することによって太陽内部の構造を調べる日震学 (helioseismology) を恒星に応用したものです。 日震学では、表面振動のパターンから対流層の深さや太陽コアの大きさなど、光学的には観測出来ない内部の情報を分析する事が可能になります。 恒星については表面を直接観測出来る事は稀なため太陽ほど詳細な観測は出来ませんが、微小な光度の変動が分かるだけでも構造の理解に関しては非常に重要な情報が得られます。

 星震学のためには恒星の微小な光度変化を捉える必要がありますが、惑星が恒星面を通過することによる微小な光度変化も捉える事が出来ます。 COROT は 10000 分の 1 の光度変化を検出することが可能で、これは地球半径の 2 倍程度の惑星を発見出来る能力があることに相当します。 打ち上げ翌年の 2007 年に COROT を用いた初めての惑星の検出が報告されました。

 COROT で発見された系外惑星の例には以下のようなものがあります。

例:
CoRoT-1b
CoRoT-7b
CoRoT-27b

 このように、COROT で惑星が発見された恒星には「CoRoT-X」、惑星には「CoRoT-Xb」という名称が付きます。 大抵の場合は、表記は大文字と小文字が混じった「CoRoT」が使われています。 しかし場合によっては、全て大文字の "COROT" で表記されている場合があります。 かつては「CoRoT-Exo-1b」という表記が用いられていましたが、現在は使われていません。

 CoRoT-1b は、惑星の公転位相に伴う光度変化が初めて観測された系外惑星です。 惑星の公転に伴い、惑星からの放射や惑星表面での反射光が地球に届く割合が変動します。 これは系外惑星の "満ち欠け" を観測する事に対応します。 惑星を直接観測する事は困難ですが、主星の CoRoT-1 の微小な光度変化として観測する事が出来ます。

 また、CoRoT-7b は地球の 1.7 倍の大きさを持ち、発見当時としては最も小さいサイズの系外惑星の発見となりました。 大きさや質量から岩石惑星である可能性が高いと推定され、初めての地球型系外惑星の発見例とされています。 (質量は判明していないものの、推定される最低質量の値から岩石惑星である可能性がある初めての系外惑星には、「さいだん座ミュー星c (Mu Arae c)」があります。 こちらの推定される最低質量は地球の10倍程度です)

 なお、COROT は 2012 年 11 月 2 日に故障によりデータ送信が出来なくなり、2013 年 6 月 24 日に運用を終了する方針である事が発表されました。 また 2014 年 6 月 17 日に COROT に向けた最後のコマンドが送信され、それを持って COROT の運用は正式に終了となりました。

HAT ネット

 HAT ネットプロジェクト (HATNet project) は、小型の複数の地上望遠鏡を用いたトランジット法による惑星検出プロジェクトです。 ハンガリーのグループが主導したプロジェクトであるため、"Hungarian Automated Telescope Network" から HATNet の名前が付けられています。 日本語にすると「ハンガリー自動望遠鏡ネットワーク」となります。 6 台の完全に自動化された望遠鏡による系外惑星の検出を行っていて、システムの管理はハーバード・スミソニアン天体物理学センターによって行われています。 計画のスタートは 1999 年、観測開始は 2001 年で、2006 年に惑星の初検出を公表しました。

 HATネットで発見された系外惑星の例には以下のようなものがあります。

例:
HAT-P-1b
HAT-P-7b
HAT-P-54b

 HAT ネットによる観測で惑星が発見された恒星には「HAT-P-X」、惑星には「HAT-P-Xb」という名称が付きます。 ハット・ピーという発音が一般的です。

 HAT ネットの観測は、後述のスーパー WASP による観測と競合する場合があり、同一の惑星を同時期に発見する事があります。 そのような場合は、両者での名称を繋げた名前になる事があります。 そのような例としては、

例:
WASP-11/HAT-P-10b (あるいは WASP-11-HAT-P-10b)
HAT-P-27/WASP-40b (あるいは HAT-P-27-WASP-40 b)
HAT-P-30/WASP-51b (あるいは HAT-P-30-WASP-51 b)

などがあり、両者の名前を繋げたものが惑星の名前("b" を取ったものが中心星の名前)になります。 カタログによっては、前者の名前のみで掲載している場合もあります。

HAT-South

 従来の HAT ネットは北半球にある 3 台の望遠鏡を用いた北天の観測のみでしたが、2009 年からはオーストラリアなどの南半球にある 3 つの観測所も HAT ネットに加わり、新たに南天の観測をする「HAT-South」が始まりました。 HAT-South による惑星の初検出は 2012 年で、従来の HAT ネットと HAT-South を合わせて、2017 年現在も観測は継続しています。

HAT-South によって発見された例としては、

例:
HATS-1b
HATS-2b
HATS-5b

などがあり、従来の HAT ネットでの発見例の名称とは別で、HAT-South から名前を取って、中心星が「HATS-X」、惑星が「HATS-Xb」となります。

Trans-Atlantic Exoplanet Survey

 Trans-Atlantic Exoplanet Survey は、地上にある複数の小型望遠鏡を用いて、トランジット法で惑星を検出するプロジェクトです。 正式な和訳があるかは不明ですが、日本語にすると「大西洋両岸系外惑星探査」といった所です。 アメリカ・アリゾナ州のローウェル天文台、カリフォルニア州のパロマー天文台、フランス領カナリア諸島の 3 箇所にある口径 10 cm の望遠鏡を用いて自動探査を行うもので、文字通り大西洋を挟んだ位置での観測です。 2004 年に初めて系外惑星を検出しました。

Trans-Atlantic Exoplanet Survey で発見された惑星は、

TrES-1
TrES-2
TrES-3
TrES-4
TrES-5

の 5 つです。 プロジェクト名の略称である「TrES」に数字を付けたものが惑星名となります。 「トレース」と読むのが一般的です。

 注意点として、このプロジェクトチームの原論文では通常の系外惑星の命名の慣習とは異なり、惑星の名前に "b" を付記していません。 そのため、このプロジェクトでの表記に忠実に従うのであれば、"b" を付けない「TrES-1」が惑星の名前を示すことになります。 この場合は、中心星は「TrES-1の主星 (TrES-1 parent star)」と表記されることになります。 あるいは主星のみ別のカタログでの名称で呼ばれることもあります。

 ただしこの表記にも揺れがあり、原論文での表記に従って惑星名を "b" を付けない「TrES-1」としている場合、慣例に従って "b" を付記した「TrES-1b」を惑星名としている場合があります。 The Extrasolar Planets Encyclopaedia では前者、Exoplanet Orbit DatabaseNASA Exoplanet Archive では後者で掲載されているため注意が必要です。 また、学術論文中での表記にも揺れがあります。

 発見個数はプロジェクトを通じて 5 つと少ないですが、様々な特徴をもった系外惑星であるため論文への登場回数も多いです。 例えば、TrES-2 はトランジット観測から、表面での反射率が 1% を遥かに下回る極めて低反射率のガス惑星であることが分かっています。 また、TrES-2 はケプラー宇宙望遠鏡での最初の観測で捉えられた系外惑星です。 そのためケプラーのカタログ上では Kepler-1b という扱いになりますが、一般的には先に発見していたプロジェクトで付けられた TrES-2 を用います。 様々な系外惑星のカタログにも TrES-2 (あるいはTrES-2b) として掲載されており、Kepler-1b という名前での掲載はされていません。

 なお、2017 年 12 月時点での最後の発見報告は 2011 年の「TrES-5」であり、現在は Trans-Atlantic Exoplanet Survey は運用されていません。

SuperWASP

 スーパーWASP (SuperWASP) は、地上にある望遠鏡でトランジット法により惑星を検出するプロジェクトです。 "WASP" は "Wide Angle Search for Planets" の略称で、日本語に訳すと「惑星の広角探査」といったところです。 カナリア諸島のロケ・デ・ロス・ムチャーチョス天文台で北半球から、南アフリカの南アフリカ天文台で南半球からの自動観測をしていて、文字通り広角の望遠鏡を用いた広範囲の探査をしています。 8 つの研究機関や大学によって構成されるコンソーシアムによって運用されているプロジェクトです。 2006 年 9 月に系外惑星を初めて発見し、以後観測を継続しています。

 SuperWASP で発見された系外惑星の例には以下のようなものがあります。

例:
WASP-1b
WASP-12b
WASP-101b

 プロジェクト名である「WASP」に発見順に番号を振り、惑星が発見された恒星を「WASP-X」、惑星には「WASP-Xb」と名前が付けられます。 「ワスプ」と読みます。

 なお上記の通り、HAT ネットが南天での探査を開始した際はプロジェクトも「HAT-South」と称していましたが、スーパー WASP でも同様に南天での探査を開始し、「WASP-South」呼ばれています。 ただし HAT-South が惑星名を HATS-Xb としているのに対し、WASP-South では北天での観測で発見されたものと区別をセず、一貫して WASP-Xb という名称を付与しています。

 先述の通り、HAT ネットによる系外惑星探査としばしば競合します。 そのため、HAT ネットによる名称と、SuperWASP での名称を併記した名前が付けられている例もあります。 (HAT ネット の項目も参照)

XO 望遠鏡

 XO望遠鏡 (XO telescope) は、ハワイのマウイ島・ハレアカラ山に設置されている望遠鏡の名前で、トランジット法によって惑星を検出します。 この XO 望遠鏡を用いた XO プロジェクト (XO project) も他と同じく自動観測を行っています。 望遠鏡名になっている "XO" は何かの頭字語ではなく、「系外惑星 "exoplanet"」から採られた名称です。 このプロジェクトに関する原論文では、XO について "XO is pronounced as it is in “exoplanet.”" と言及されています。

 XO 望遠鏡は 2 台の 20 cm 口径の望遠鏡のペアになっていて、望遠鏡自体は「Trans-Atlantic Exoplanet Survey (TrES)」で用いられているものと似ています。 このプロジェクトでは、天文学者とアマチュア天文家が協力して系外惑星の探査を行っていて、2006 年に初めて系外惑星を発見しています。

 XO 望遠鏡を用いて発見された系外惑星の例には以下のようなものがあります。

例:
XO-1b
XO-5b
XO-2Nb

 「XO」の後に番号を付記し、惑星が発見された恒星が「XO-X」、その惑星名が「XO-Xb」となります。

 XO-2Nb は以前は単に XO-2b と呼ばれていましたが、主星である XO-2 が距離が非常に離れた連星を持っているらしいということが分かり、連星はそれぞれ XO-2N と XO-2S、惑星名は XO-2Nb となりました。 なお、連星のもう一方の XO-2S の周囲にも惑星が発見されていますが、こちらは XO 望遠鏡による検出ではありません。 連星周りの系外惑星の名前や、同じ恒星周りに異なる発見法で見つかった場合については後で紹介します。 (連星系の惑星の命名その他の項目参照)

 2006 年から 2008 年にかけて、合計 5 例の発見をしていますが、そのうちの「XO-3b」は推定質量が巨大ガス惑星と褐色矮星の境界値に近く(11.79 木星質量)、褐色矮星である可能性も指摘されています。 XO-3b は軌道長半径が 0.0454 AU と中心星に非常に近い巨大ガス惑星 (もしくは褐色矮星) ですが、軌道離心率は 0.2883 と比較的大きな値になっています。 また軌道傾斜角の測定も行われていて、観測精度によるばらつきが大きいものの、非常に大きく傾いた軌道を持っていることが分かっています。 そのため、"oddball" (変わり者、風変わりな、という意味) という異名を持っています。

 なお、XO プロジェクトによる系外惑星の新規発見報告は 2008 年の XO-5b 以来途絶えていましたが、2016 年 12 月におよそ 8 年ぶりに XO-6b の発見の報告がされました。

ケプラー

 ここ数年の系外惑星発見個数を桁レベルで急激に更新しているのがケプラー (Kepler)です。 日本語ではケプラー宇宙望遠鏡やケプラー探査機と表記される場合がありますが、NASA の公式では単に "Kepler" とだけ表記されています。

 ケプラーは、トランジット法によって惑星を検出する事を主目的として設計された宇宙望遠鏡で、視野内の多数の恒星の変光を、同時に高精度で検出する事が出来ます。 観測視野内の 10 万個の恒星を同時にモニターする事が可能です。 また、わずか 20 ppm の減光を検出する事が可能で (12 等級の恒星を計 6.5 時間観測する場合)、これまでは検出が難しかった地球サイズの系外惑星を十分に発見することができる精度を持っています。 そのため、ケプラーは多数の惑星や惑星候補を発見する事が可能で、"ケプラー前" と "ケプラー後" では系外惑星の発見個数は劇的に変化しています。

 ケプラーは地球を周回する軌道ではなく、地球を追いかけるような位置で太陽の周りを公転する軌道に乗っています。 これによって地球からの光の影響を避けて観測を行うことができます。 しばしば "人工衛星" と紹介されることがありますが、地球を周回していないため厳密には正しくありません。 また、太陽光の影響を防ぐためと、小惑星等による減光で誤検出が起きるのを防ぐため、黄道面から離れたはくちょう座の方向を中心に観測を行っています。

 2017 年 12 月時点で存在が確定している系外惑星のうち、半数以上がケプラーによって発見されたものであり、さらに存在が確定していない惑星候補だけでも 3000 を超す件数が発見されていますが、それでもケプラーは全天のごく一部しか観測していないということに注意が必要です。

 ケプラーを用いて発見された系外惑星の例には以下のようなものがあります。

例:
ケプラー7b (Kepler-7b)
ケプラー11b (Kepler-11b)
ケプラー186f (Kepler-186f)

 ケプラーによって発見され存在が確定した順に、「ケプラー + 番号」の形で名前が与えられます。 番号は惑星の存在が確定した順に与えられます。

 ケプラーは 2009 年に打ち上げられ、2010 年から本格的に観測を開始しました。 その後の数年で数千個を超える惑星候補を発見しましたが、2013 年 5 月に、姿勢制御に使うリアクションホイールが故障して姿勢制御が困難になりました。 姿勢制御に使用するリアクションホイールは、完全な姿勢制御のためには最低 3 個が必要であり、多くの場合バックアップも兼ねて 4 個のリアクションホイールが搭載されています。 2012 年の半ばにはケプラーのリアクションホイールが 1 個機能しなくなりましたが、3 つ残っていたため姿勢制御には問題ありませんでした。 しかし 2 つ目も機能しなくなったため、完全な姿勢制御が不可能となりました。

 そのため従来通りのミッション継続は出来なくなりましたが、その後まだ生きている機能を活用した次の観測計画である「K2 mission」が始まっています。 K2 mission では、ケプラーの姿勢制御にはまだ機能している 2 つのリアクションホイールと、太陽光による光圧を利用して姿勢制御を行います。 姿勢制御をしつつ 83 日間連続して同じ方向の観測を行い、その後太陽光を避けるために方向を変えてふたたび別の方向を 83 日間観測を行う、というサイクルを繰り返します。 K2 mission では、新たな系外惑星の検出の他にも、超新星の観測や星形成領域の観測、太陽系内の小惑星や彗星などの小天体の観測も視野に入れています。

 また、観測された多数のデータの解析や、発見された惑星候補を追観測して存在を確定させるには時間がかかるため、今後も「ケプラーXXb」という名前の系外惑星は増える予定です。

 ケプラーを用いた観測では、まず観測する予定の対象に Kepler Input Catalog (KIC) の番号が与えられます。 KIC に登録されているのは 1320 万個を超える恒星であり、「KIC + 最大 8 桁の番号」という名前が付きます。 例えば「KIC 10227020」です。

 その後の観測によって、Kepler Input Catalog の中で惑星が存在する兆候が観測された場合は、まずは Kepler Object of Interest (KOI) の番号が付けられます。 この場合、興味のある変光を示した恒星を「KOI-718」などと表記し、その周りにある惑星候補天体には「KOI-718.01」という形で小数点の枝番が付けられます。 惑星候補天体が複数ある場合は、「KOI-718.02」、「KOI-718.03」という形になります。 まだ存在が確定していない場合は、KOI を用いた名称で扱われる場合もあります。

 さらにそのあと、追観測によって存在が確定した場合は、正式にケプラーの番号が与えられます。 例えば、「KIC 10227020」という恒星は惑星によると思われる変光が検出されたため、「KOI-730」という名前が与えられました。 惑星候補の名前は「KOI-730.01」です。 その後の追観測で存在が確定し、恒星は「ケプラー223」、惑星は「ケプラー223b」という名前が付きました。

 系外惑星のカタログによっては、KOI を使った名称や、KIC を使った名称で掲載されている場合もあります。 例として、KIC 番号のまま呼ばれているものには、

例:
KIC 3558849b
KIC 5437945b
KIC 10001893b

などがあります。
KOI 番号のまま呼ばれているものには、

例:
KOI-12b
KOI-13b
KOI-351b

などがあります。

 恒星の特徴的な変光が見られ、Kepler Object of Interest の番号が与えられた場合も、そのシグナルが惑星によるものでは無かった場合はケプラーの番号は与えられません。 例えば恒星の自転などに伴う周期的な変光を捉えていたもの、惑星によるトランジットではなく恒星同士の連星の食現象を捉えていたもの、同じ視野にある別の恒星の変更が紛れ込む場合などが "誤検出" の例として挙げられます。 また、変光を見落としていたため Kepler Object of Interest の番号は与えられなかったものの、後に惑星が発見されてケプラーの番号が与えられたことがあります。 ケプラー78 (KIC 8435766)とその周りの惑星ケプラー78b は既に確定した惑星ですが、シグナルを見落としていたため KOI の番号は与えられていません。

K2ミッション

 先述の通り、ケプラーは 2013 年に 2 つ目のリアクションホイールが故障した後は、K2 ミッションに移行しています。 このミッションでは黄道面を中心にトランジット法による系外惑星探査をしています. ケプラーの当初ミッションにおける KIC と同様に、K2 ミッションにおいても観測する予定の天体にはカタログ番号が付与されます。 こちらは Eclipcit Plane Input Catalog (EPIC) というカタログ名で、例えば「EPIC 211351816」というように EPIC のあとに 9 桁の数字が付与されます。 この数値は 201000000 から始まり、EPIC カタログにはおよそ 2800 万個の天体が収録されています。

 ケプラーミッションでは特徴的なシグナルが検出された KIC 天体には KOI 番号が与えられましたが、K2 ミッションではそれに相当するものは存在しません。 またケプラーミッションでは惑星のシグナルの解析はケプラーのチームが行っていましたが、K2 ミッションはデータの解析をして惑星を「発見」するための統一的なチームは設けられていません。 そのため、世界中の天文学者が独自にチームを作ってケプラーの K2 ミッションで取得され公開されたデータの解析を行って、惑星の発見を行っています。

 その後惑星であることが確認されると、以下のような名前が与えられます。

例:
K2-3b
K2-4b
K2-80b

 ケプラーの K2 ミッションによる観測で発見された惑星の場合、「K2-Xb」という名前となります。

 なお、KIC の例と同様に、EPIC 番号のままで呼ばれている例も存在します。 例えば以下のような例が存在します。

例:
EPIC 211351816b
EPIC 211391664b

 こちらは後に K2 の番号が与えられる場合もありますが、継続して EPIC 番号で呼ばれ続ける場合もあります。

 ケプラーの主目的はトランジット法による系外惑星の検出ですが、中心星の明るさのわずかな変動を捉えるという意味では、COROT と同様に恒星自身の変光の観測をする事もできます。 実際、高精度で光度変化を検出出来るケプラーのデータを用いた変光星の観測も活発に行われています。 いくつかの恒星では、巨大なフレア現象にともなう急激な増光と、その後の減光の様子が捉えられていて、恒星でのスーパーフレア (通常のフレアを遥かに超えるエネルギーのフレア) の観測・研究でも成果を上げています

MOA

 系外惑星の検出方法の一つに、重力マイクロレンズ法があります。 これは、ある恒星 (背景星) の手前を、惑星を伴った別の恒星 (レンズ天体) が通過する際に、背景星の明るさがレンズ天体とその惑星の重力によって曲げられて集光され、特徴的な変光曲線 (ライトカーブ) になることを観測する手法です。

 光が重力で曲げられるという効果は一般相対論から予言され、銀河団などの大質量の天体による重力レンズ効果も実証されていますが、これはその現象の規模の小さい場合になります。 単に、背景星の手前を単独のレンズ天体が通過するだけの場合は、レンズ天体による重力レンズ効果によって背景星からの光が増光してから減光するだけの、単純な光度曲線になります。 しかしレンズ天体が惑星を持っている場合は、単純な光度曲線に、惑星による重力レンズの効果が現れることになります。 重力マイクロレンズ法では、あくまで観測しているのは背景星の光度変化であり、惑星を持っているレンズ天体やその惑星からの光を見ているわけではありません。

 重力レンズによるダークマターなどの検出を行うプロジェクトは複数あり、その一環として重力マイクロレンズ法を用いた系外惑星の検出を行っているグループがあります。 Microlensing Observations in Astrophysics (MOA) はその代表例であり、日本とニュージーランドの 4 つの研究機関が協力して、ニュージーランドのマウントジョン天文台にある望遠鏡を用いて観測を行っています。 日本語にするのであれば「宇宙物理学でのマイクロレンズ観測」といった所ですが、単に「MOA」と呼ばれる場合がほとんどです。 ニュージーランドにかつて生息していた鳥類の「モア」にもかけた名称になっています。

 MOA プロジェクトは 1996 年に開始され、2004 年 12 月には新しい望遠鏡 (MOA-II) が完成し、MOA-II での観測が行われています。

 MOA プロジェクトによって発見された系外惑星の例には以下のようなものがあります。

例:
MOA-2007-BLG-192Lb
MOA-2013-BLG-220Lb
MOA-bin-1Lb

 重力マイクロレンズで惑星が発見された場合の命名は非常に複雑です。 先頭には、プロジェクト名である「MOA」が付き、次に観測された西暦を付けます。 次にある「BLG」は、観測している方向である銀河バルジ (Galactic BuLGe) から採られています。 重力マイクロレンズでは、背景星の手前をレンズ天体が横切る事 (レンズイベント) が発生して初めて検出が出来るため、恒星の密度が高い銀河のバルジ方向を観測すると、レンズイベントの期待値も高くなります。 次に来ているのは、その年に起きたレンズイベントの通し番号です。 背景星の手前をレンズ天体が横切るレンズイベントはしばしば発生しますが、必ずレンズ天体が惑星を伴っているとは限りません。 惑星を伴っているかどうかは、マイクロレンズによる増光に特徴的なパターンが検出されて初めて判明するため、単に単独のレンズ天体によるレンズイベントの場合も通し番号を付けます。

 このようにして付けた、「MOA-(西暦)-BLG-(通し番号)」は、増光を起こして見える背景星の名称です。 増光を起こす原因となるレンズ天体の方には「MOA-(西暦)-BLG-(通し番号)L」と、背景星に"L"を付けて表します (レンズ天体であることを示す "L" だと思われます)。 そして、そのレンズ天体に付随している惑星には、慣習通り "b" を付記して、「MOA-(西暦)-BLG-(通し番号)Lb」という名前が付けられます。

 そのため、「MOA-2007-BLG-192Lb」を例にすると、
「MOA-2007-BLG-192」・・・増光現象が観測された恒星 (背景星)
「MOA-2007-BLG-192L」・・・背景星の手前を通過した恒星 (レンズ天体) で、惑星を持っていた
「MOA-2007-BLG-192Lb」・・・レンズ天体の周りを回る惑星
といった関係になります。 背景星とレンズ天体は、偶然、一時的に地球から見てほぼ一直線上の位置関係に来ただけの関係であり、力学的な関係は全くありません。

 また、例に挙げた「MOA-bin-1Lb」は上記のルールに則っていません。 こちらは、初めて連星系での検出が報告された天体であり、それを意味するために連星 (binary) の "bin" を付記した命名になっています。

 「MOA-2007-BLG-192Lb」の場合、日本語では「モア・にせんなな・バルジ・いちきゅうに (or ひゃくきゅうじゅうに)・エル・ビー」と発音するのが一般的です。

 重力マイクロレンズ法による検出を行っているグループは複数あり、それぞれ競合関係かつ協力関係にあります。 詳細は次の OGLE の項目で紹介します。

OGLE

 Optical Gravitational Lensing Experiment (OGLE) では、MOA と同じく重力マイクロレンズを用いた惑星の検出を行っています。 こちらも、MOA 同様重力レンズ効果によるダークマターの検出が目的のプロジェクトであり、その一環として系外惑星の検出もされています。 こちらは日本語に直訳すると「光学的重力レンズ実験」となります。 ポーランドのワルシャワ大学を中心とするグループで、チリのラスカンパナス天文台で観測を行っています。

 重力マイクロレンズ法は、背景星のレンズイベントを検出することによってレンズ天体とその惑星の性質を明らかにしますが、つまり観測しているのは恒星の光度変化です。 原理的には重力マイクロレンズ以外の変光も検出出来るはずです。 実際 OGLE プロジェクトでは、重力マイクロレンズによる惑星の検出以外にも、トランジット法による惑星の検出も行っています。

 OGLE プロジェクトによって発見された系外惑星の例には以下のようなものがあります。

例:
OGLE-2003-BLG-235Lb
OGLE-2013-BLG-0341Lb
OGLE-TR-10b
OGLE-TR-211b

 例に挙げたもののうち、上の 2 つが重力マイクロレンズで発見された惑星です。 命名規則は MOA の場合と同じで、先頭が「OGLE」に変わっただけです。 詳細は MOA の項目も参考にしてください。

 一方、下の 2 つはトランジットで発見された惑星です。 こちらは先頭に「OGLE」を付け、次にトランジット (transit) を意味する「TR」を付け、最後に観測の通し番号を付けます。 OGLE プロジェクトでトランジット法で惑星が発見された場合は、恒星の名前が「OGLE-TR-(通し番号)」になり、惑星名は "b" を付けて「OGLE-TR-(通し番号)b」となります。 レンズ現象ではないため、"L" の添字は付けません。

 「OGLE-2003-BLG-235Lb」の場合、日本語では「オーグル・にせんさん・バルジ・にさんご (or にひゃくさんじゅうご)・エル・ビー」と発音するのが一般的です。

 重力マイクロレンズ法では、レンズイベントはいつ起きるか全く不明で、しかも一度発生した後同じレンズ天体がレンズイベントを起こすとは限りません。 重力マイクロレンズでの系外惑星観測は一期一会であり、同じレンズ天体によるレンズイベントは今後二度と観測出来ない可能性が非常に高いです。 そのため、ある背景星の増光現象が始まった場合は、世界各地で同じような観測をしている天文台にアラートを出して連携を取り、複数の望遠鏡でフォローアップ観測を行います。 そのため、OGLE と MOA も競合かつ協力体制にあります。

 例として、「OGLE-2013-BLG-0341LBb」の発見に関しては、OGLE と MOA の他に、イスラエルの Wise Observatory、ニュージーランド・オークランドの Auckland Observatory、チリのセロ・トロロ汎米天文台 (Cerro Tololo Inter-American Observatory, CTIO) の SMARTS telescope (CTIO-SMARTS)、ニュージーランドの Farm Cove Observatory、オーストラリア・パースの Perth Exoplanet Survey Telescope、ニュージーランドの Possum Observatory、ニュージーランドの Turitea Observatory の合計 9 つの天文台で同時に観測を行っています。

 OGLE と MOA の双方で独立に検出されたため両方の名前が付けられた惑星もあり、

OGLE235-MOA53b

という名前が付いています (あるいは「OGLE-2003-BLG-235Lb/MOA-2003-BLG-53Lb」)。 この惑星は、重力マイクロレンズ法を用いて初めて発見された系外惑星です (検出は 2003 年、発見報告は 2004 年)。

 MOA と OGLE は重力マイクロレンズ法での検出を行っていますが (OGLEに関してはトランジット法も含む)、重力マイクロレンズ法ではかなり軽い惑星に対しても感度があることが特徴です。 また、他の手法では難しい、中心星からかなり離れた長周期の惑星の検出を得意としています。

 近年、重力マイクロレンズを用いて、中心星の周囲を公転していない惑星質量天体、いわゆる浮遊惑星が複数発見されています。 こちらは、レンズ天体が単独の天体であり、なおかつ褐色矮星の質量よりも有意に軽いことが判明しているものです。 初めの方にも書いたように、恒星の周囲を公転していない天体を惑星と呼んで良いのかは微妙な問題ですが、重力マイクロレンズによる観測から、銀河系内には無数の "浮遊惑星" が存在することが判明しています。

Kilodegree Extremely Little Telescope

 Kilodegree Extremely Little Telescope (KELT) は、オハイオ州立大学などが行っている、2つの小型地上望遠鏡を用いたトランジット法による惑星検出プロジェクトです。 定訳はありませんが、直訳で「キロ度超小型望遠鏡」あたりでしょうか。 小型望遠鏡ではありますが、視野が広いことから "kilodegree" という名称が与えられたとのことです。

 KELT では、口径 4.2 cm の小型望遠鏡による自動観測を行っています。 2006 年に完成したアメリカ・アリゾナ州の Winer Observatory にある KELT-North、2009 年に完成した南アフリカの Sutherland にある、South African Astronomical Observatory (SAAO) の KELT-South の 2 つの望遠鏡を運用し、等級が 8 から 10 程度の恒星を中心に観測しています。 KELT を用いた観測では、2012 年に初の発見に成功しています。

 このプロジェクトで発見された系外惑星の例には以下のようなものがあります。

例:
KELT-3b
KELT-6b

 望遠鏡名の略称である「KELT」に、番号を振ったものが名称になります。

その他

Planet Hunters

 イギリスのエール大学が主導している、アマチュア天文家による系外惑星探査プロジェクトに「プラネットハンターズ (Planet Hunters)」というものがあります。 Planet Hunters のプロジェクトは、市民参加型の企画である「Zooniverse」プロジェクトの一環として行われています。 このプロジェクトでは独自の観測を行っているわけではなく、ケプラーで得られたデータを解析することによって系外惑星を "発見" しています。 2013 年の論文で最初の発見報告がありました (発見報告自体は2012年)。

 このプロジェクトで発見された惑星は、

PH1b
PH2b

 があります。「PH」は「Planet Hunters」の頭文字です。 文献によっては「PH1」を惑星名としているものもありますが、発見報告の元論文では「PH1b」と "b" を付記したものを惑星名としていて、系外惑星のカタログでも "b" を付記してある場合があります。

 「PH1b」は、4 重連星系に発見された初めての惑星です。 KIC 4862625Aa と KIC 4862625Ab が二重連星になっており、そこから 0.634 AU 離れた場所を PH1b が公転しています。 また、KIC 4862625Aa と KIC 4862625Ab の連星系から 1000 AU ほど離れた地点を、KIC 4862625Ba とKIC 4862625Bb の連星系が回っているという 4 重連星系になっています。 なお「KIC」はケプラーの項目でも出てきた Kepler Input Catalog のことです。

SWEEPS

 Sagittarius Window Eclipsing Extrasolar Planet Search (SWEEPS) は、ハッブル宇宙望遠鏡を用いた銀河系中心部方向の観測プロジェクトです。 観測は 2006 年に行われ、トランジット法による検出を目的としていました。

 銀河の中心方向である、いて座 (Sagittarius) の一部領域における惑星による食 (eclipse) を観測するプロジェクトであった事から、このようなプロジェクト名が付けられています。 通常、銀河中心のバルジ方向は円盤面の星間物質が多いため観測には向きませんが、星間物質の影響が少なく中心付近の恒星を観測出来る "窓領域 (window region)" が存在します。 このプロジェクトでは、「Sagittarius I window」という窓領域を観測しています。 観測視野内にある 180000 個に及ぶ恒星が 7 日間に渡って観測されました。

 このプロジェクトで発見された系外惑星は、

SWEEPS-4
SWEEPS-11

 の 2 つがあります。 この 2 つを含めて合計 16 個の惑星候補天体が発見されましたが、視線速度法で追観測され、質量が判明して惑星だと確認されたものはこの 2 つのみで、残り 14 個は未確認です。 暗い恒星は視線速度法での観測が難しいため、追観測も困難になります。 「SWEEP-11」の中心星「SWEEPS J175902.67−291153.5」は実視等級が 19.83 等で、トランジット観測で惑星が発見された天体の中では最も暗いものです(2017 年 6 月現在)。

 SWEEPS で発見された惑星も、"b" を付けない名前となっています。 しかし文献やカタログによっては、"b" を付けた名前になっている場合があります。 中心星の名前には SWEEPS プロジェクトに因んだ名前が付きますが、赤経と赤緯を使った複雑な名前になっています。 例えば、SWEEPS-4 の中心星は「SWEEPS J175853.92−291120.6」という名前です。

Lupus transit survey

 Lupus transit survey は、2007 年にオーストラリアのサイディング・スプリング天文台の 40 インチ望遠鏡を用いて行われた、おおかみ座 (Lupus) 方向の系外惑星探査プロジェクトです。 トランジット法によって惑星候補天体が 6 個発見され、そのうち一つが惑星である事が判明しています。

Lupus-TR-3b

 "TR" はトランジットを意味します。 主星である Lupus-TR-3 の等級は 17.4 等で、地上からのトランジット観測で惑星が発見された天体の中では最も暗いものです (2017 年 6 月現在)。

Pre-OmegaTranS project

 pre-OmegaTranS project は、チリの La Silla Observatory で行われた系外惑星探査プロジェクトです。 「OmegaCam」を使ったトランジット法による系外惑星探査計画を "OmegaCam Transit Survey (OmegaTranS)" と呼びますが、その観測プロジェクトの試験的なものがこの "pre-OmegaTranS project" です。 初めての系外惑星の発見は 2013 年です。

 このプロジェクトで、

POTS-1b

 が発見されています。 「POTS」はプロジェクト名の文字から採られています。

Qatar Exoplanet Survey

 Qatar Exoplanet Survey (QES) は、小型望遠鏡を用いたトランジット法により惑星を検出するプロジェクトです。 ニューメキシコに設置した望遠鏡を使って観測を行っています。

Qatar-1b
Qatar-2b

 などが発見されています。 "Qatar" に通し番号を付けたものが恒星名、それに "b" を付記したものが惑星名です。

 このプロジェクトは、カタール出身の Khalid Alsubai が中心となって進められていて、Alsubai は QES プロジェクトの設立者兼研究責任者を勤めています。

 なお、2010 年の「Qatar-1b」の発見を報告する論文では QES の文字は一切使われておらず、プロジェクト名は "Alsubai Project" と呼ばれていて Alsubai のプロジェクトに対する影響力を感じさせるものとなっています。 またこの時は Alsubai は "Qatar foundation" の所属となっています。 翌 2011 年の「Qatar-2b」の発見報告論文では、逆に Alsubai Project という名称は一切使われておらず、一貫して "Qatar Exoplanet Survey (QES)" と呼ばれています。

 QES プロジェクトでは、2010 年 に Qatar-1b、2011 年に Qatar-2b の発見が報告されて以来新しい発見の報告が途絶えていましたが、2016 年になって Qatar-3b, 4b, 5b の 3 つの惑星系の発見が報告されました。

WFCAM Transit Survey

 ハワイのマウナケア山にある、3.8 メートル口径の「イギリス赤外線望遠鏡 (United Kingdom Infrared Telescope, UKIRT)」を使った惑星検出プロジェクトが、WFCAM Transit Survey です。 赤外線領域でのトランジット法による惑星の検出を行います。 2012 年に初めて系外惑星の発見に成功しています。 "WFCAM" というのはこのプロジェクトで用いられている "Wide Field Camera" というカメラの名称です。 そのため直訳すると「広視野カメラトランジットサーベイ」となります。

 このプロジェクトで、

WTS-1b
WTS-2b

 が発見されています。 プロジェクト名の頭文字と、発見順の通し番号から名前が付けられています。

TRAPPIST

 ベルギーのリエージュ大学 (University of Liège) とスイスのジュネーブ天文台 (Geneva Observatory) が中心になって運用している、トランジット観測のための自動望遠鏡が Transiting Planets and Planetesimals Small Telescope (TRAPPIST) です。 TRAPPIST という名称は、かつてのベルギーの Trappist Order のオマージュでもあります。

 TRAPPIST の装置は南米のラ・シヤ天文台 (La Silla Observatory) に設置されており、2010 年に運用を開始しました。 2015 年の観測で 2MASS J23062928-0502285 (後に TRAPPIST-1 という名前も付与される)のトランジットを検出し、2016 年に TRAPPIST による初めての系外惑星の検出が報告されました。

 このプロジェクトで、

TRAPPIST-1b
TRAPPIST-1c
TRAPPIST-1d

 が発見されています。 このプロジェクトで惑星が発見された場合、恒星の名前は TRAPPIST-X、惑星の名前は TRAPPIST-Xb となります。

 このプロジェクトで惑星が発見された TRAPPIST-1 は M 型主系列星 (赤色矮星) の中でも特に軽い部類であり、恒星としては表面温度が 2550 K と非常に低いため、超低温矮星 (ultracool dwarf) と呼ばれることもあります。 また 3 つの惑星のうち、TRAPPIST-1d はハビタブルゾーン内にあると考えられています。

 なお TRAPPIST-1 は後にスピッツァー宇宙望遠鏡を用いた追観測も行われ、合計で 7 個もの地球型惑星が発見されています (2017 年 6 月現在)。

KMT

 重力マイクロレンズを用いた系外惑星探査プロジェクトには上記の MOA と OGLE という二大グループが存在しますが、最近になって韓国の天文学者が中心になったプロジェクトが始まりました。 このプロジェクト名は Korea Microlensing Telescope Network (KMTNet) で、2015 年 2 月に稼働しました。 直訳で「韓国マイクロレンズ望遠鏡ネットワーク」あたりでしょうか。 重力マイクロレンズ現象を捉えるための観測装置は、チリのセロ・トロロ汎米天文台 (Cerro Tololo Inter-American Observatory, KMT CTIO)、南アフリカの南アフリカ天文台 (South African Astronomical Observatory, KMT SAAO)、オーストラリアのサイディング・スプリング天文台 (Siding Spring Observatory, KMT SSO) の三箇所に設置されていて、いずれも 1.6 m 口径の望遠鏡です。

 このプロジェクトでは 2015 年 7 月に初めての系外惑星の検出が報告され、

KMT-2015-1b

 が発見されています。 KMT-(観測年)-(通し番号)b という名称になるようです。

Next-Generation Transit Survey

 Next-Generation Transit Survey (NGTS) は、自動化された地上の小型望遠鏡による系外惑星探査サーベイプロジェクトの名称です。 トランジット法での系外惑星の検出を目的としています。 プロジェクト名は直訳すると「次世代トランジットサーベイ」となります。 ヨーロッパの 7 つの大学と、チリなどの研究機関によって構成されるコンソーシアムによって運用されており、望遠鏡はチリ・アタカマ砂漠のパラナル天文台に設置されています。

 太陽近傍の 13 等級程度までの恒星を探査対象とし、スーパーアースや海王星サイズの系外惑星の検出を主な目的としています。 また、これまでに探査例が少なかった、M 型矮星の周りでの惑星探査を行うことも目標としています。

 このプロジェクトでは 2017 年 10 月末に初めての系外惑星の検出が報告されました。 2017 年 12 月時点で、

NGTS-1b

 が発見されています。 プロジェクト名の略称をそのまま使用して、NGTS-(通し番号)b という名称になります。

様々な系外惑星の名称の由来:その他

 系外惑星の名前でしばしば目にするものは、固有名や星表での通し番号など元々恒星が持っていた名称に "b, c, d, ..." を付記する場合や、系外惑星探査プロジェクト名の名前が付けられる場合がありました。

 ここで紹介するのは、そのどちらにも分類しづらいものです。 惑星探査プロジェクトとは無関係の何らかの観測プロジェクトによって観測され、そのプロジェクトにちなんだ名称が付いている天体の周りに、後から惑星が発見されたという例や、特殊な系外惑星について紹介します。

2MASS

 2MASS は、NASA が 1997 年から 2001 年にかけて行った、近赤外線領域での全天探査プロジェクトです。 北半球と南半球にそれぞれ 1 台ずつある地上望遠鏡を用いて、全天を近赤外線で観測したものです。 "2MASS" とは、"Two Micron All-Sky Survey" の略称であり、波長が 2 μm 付近の 3 波長帯の近赤外線で観測したことからこの名前が付いています。

 近赤外線探査の利点は、比較的低温で暗い天体を発見しやすくなるという点です。 通常の可視光線での観測では恒星の観測ができますが、恒星の中でも特に小さく暗い赤色矮星 (red dwarf) や、水素核融合を起こしていない褐色矮星などは赤外線領域では捉えやすくなります。 そのため、2MASS 天体には近傍の赤色矮星や褐色矮星が多いです。

 2MASS 天体の周囲の惑星の例としては、

例:
2MASS J01225093-2439505b
2MASS J04414489+2301513b
2M1207b

 などがあります。

 ほとんど意味不明な数字の羅列に見えますが、もちろん意味はあります。 先頭の "2MASS" は 2MASS プロジェクトによる天体である事を意味しています。 そのあとにある "J" は、「J2000」という元期 (epoch) を基準にして天球面の赤道座標を決定する事を示す符号です。 "J" はユリウス暦 (Julian calender) などの Julian から来ています。 その後の数値は、前半が赤経 (right ascension)、後半が赤緯 (declination) です。 赤経、赤緯は共に天球上での位置を表すための座標です。

 赤緯は、天の北極を +90°、天の南極を -90°とし、天の赤道が 0° です。 地球表面で言う緯度に対応するものですが、北緯・南緯とは分割せずに、プラスとマイナスで表現します。
 赤経は、春分の日に太陽が赤緯 0° に来る時の方向を基準の "0時" として、東方向に 1 時、2 時と数えて行き、1 周で 24 時間になるように分割します。 地球表面で言う経度に対応するものですが、東経・西経のような角度ではなく、時間と同じ単位を使って「時・分・秒」で表します。 15時23分50秒という形で書かれますが、時間と間違えやすいため、15h23m50s と表記します。

 地球上で、緯度と経度を指定すれば位置が定まるのと同様に、天球上で赤緯と赤経を指定すれば位置が定まります。 観測プロジェクト名のあとにその天体の赤経・赤緯を並べたものを、天体名として使用することがあります。 2MASS 天体もその一例です。

 「2MASS J01225093-2439505」を例にとると、"J" はまず元期に J2000 を用いている事を明示しています。 元期には J2000 の他にも、かつてよく使われていた B1950 (B は Bessel から採られている) があるため区別のために付けられていますが、混同の心配が無い場合は "J" を省略する場合もあります。 その次が赤経で、01225093 は、赤経 01h22m50.93s を意味しています。 その次が赤緯で、-2439505 は赤緯 -24°39'50.5 であることを意味しています。 この場合の "-" はハイフンではなく、プラスかマイナスかのマイナスを表していることに注意が必要です。

 場合によっては、赤経・赤緯の値は細かい数値まで書かずに、最初の 4 桁程度までしか使っていない場合もあります。 また、さらに省略した名称を通称として使用している場合もあります。 例えば、例に挙げた 3 つ目の「2M1207」がその例、で赤経の最初 4 桁しか使っていません。 より正確な名称としては「2MASS J12073346-3932539」という名前を持っていますが、この天体に関してはシンプルな方の名称が使われている事が多いです。

 2MASS 天体には低温で暗い赤色矮星や褐色矮星が多く含まれています。 例えば「2M1207」は水素の核融合を起こしていない褐色矮星です。 2MASS プロジェクトで発見されていた 2M1207 を、2004 年にチリの Very Large Telescope (VLT、超大型望遠鏡) にて赤外線で観測した結果、すぐ傍に発見された天体が「2M1207b」です。 2M1207b は、赤外線を用いて初めて直接観測された惑星です。 また、褐色矮星まわりに初めて発見された惑星でもあります。

広域赤外線探査衛星

 「広域赤外線探査衛星 (Wide-field Infrared Survey Explorer, WISE)」は、アメリカが 2009 年に打ち上げた赤外線宇宙望遠鏡です。 4 つの赤外線の波長帯で、恒星や銀河などの検出、褐色矮星などの低温星からの赤外領域における熱放射の観測、太陽系内の小惑星の観測、星形成領域のダストの観測を中心に行っていました。

 高感度の観測によって、非常に低温な褐色矮星も複数発見しており、この WISE 衛星で発見された天体には「WISE (赤経)(赤緯)」という名称が付いているものがあります。 これらの褐色矮星の中には惑星が発見されているものがあり、

WISE 0458+6434b
WISE 1217+16Ab
WISE 1711+3500b

 などがあります。 赤経 (初めの 4 桁の数字) の前に、元期 J2000 を意味する "J" を付ける場合もあります。

 なお、WISE 衛星は 2011 年初頭には運用を終了しましたが、その後 2013 年 10 月から再び観測を開始しています。

パルサー惑星

 通常の惑星は、太陽のような恒星の周りを公転しているというイメージがありますが、中心星が恒星ではない場合もあります。 例えば、中心星がパルサー (Pulsar) である「パルサー惑星 (Pulsar planet)」が発見されています。

 パルサーは非常に正確な周期でパルスを発している天体であり、その正体は高速で自転する中性子星です。 パルサーの周囲に他の天体が公転していると、この天体の影響によってパルスのタイミングがわずかに変動します。 この変動を観測することによってパルサー周りの惑星を発見する事ができ、この手法はパルサータイミング法と呼ばれます。

 パルサー惑星には、

例:
PSR B1257+12 B
PSR B1620-26b
PSR J1719-1438b

 などがあります。

 パルサーの名称は、パルサーを意味する "PSR" を先頭に付け、そのあとに赤経・赤緯を付けます。 "B" は元期に B1950、"J" は元期に J2000 を用いていることを意味します。 例えば「PSR B1620-26b」の場合は、中心星はパルサー「PSR B1620-26」であり、B1950 元期での座標が赤経 16h20m、赤緯 -26° であるということを表します。

 例の 1 つ目に挙げた「PSR B1257+12 B」は、同じパルサーを回る「PSR B1257+12 C」と共に初めて発見されたパルサー惑星です。 発見されたのは 1992 年で、主系列星周りの系外惑星の初発見 (ペガスス座51番星b) である 1995 年よりも早いため、この惑星が太陽系外惑星の初発見例になります。 従って、パルサー周りの惑星の初発見例でもあります。

 しかしこれはパルサー周りという特殊な環境であるため、「太陽系外惑星の初めての発見」と言った場合は、1995 年のペガスス座51番星b の発見を指す場合がほとんどです。 なおこの 2 つの発見後の 1994 年には、同じく PSR B1257+12 周りに「PSR B1257+12 A」が発見されていて、こちらもペガスス座51番星b の発見より前です。

 なお、系外惑星 "候補" の初発見は 1989 年の「HD 114762b」で、質量の下限値が 11 木星質量なので真の質量が下限値に近ければこちらが "初検出例" となります。 しかし、真の質量は判明していないため、一般に「HD 114762b」は系外惑星の初検出例とは見なされません。

 パルサー惑星の命名も、通常通りパルサー名に発見順に "b, c ,d, ..." を付けて表しますが、初めて発見されたパルサー惑星の場合のみ例外です。 「PSR B1257+12」周りを回る惑星に限っては、中心星に近い順で A, B, C と大文字のアルファベットが与えられています。 系外惑星の名前には中心星の名前に発見順に "b, c , d, ..." と付けるという慣習はもっと後になって確立したものなので、初の系外惑星発見例であるこのパルサー惑星に関しては例外となっています。

 連星の命名には、通常は中心星の名前に "B" を付けます。 例えばある恒星 "Star" に連星が発見された場合は、主星を "Star A" とみなして新たに発見された方に "Star B" と付ける、というルールです。 この慣習に倣って、PSR B1257+12 に見つかった惑星には B, C と付けられました。 その後 PSR B1257+12 B の内側に新たに惑星が発見され、"A" が与えられました。

 ただし、例によって PSR B1257+12 周りの 3 つの惑星の表記には文献によってばらつきがあり、例えばExoplanet Orbit Database では "A, B, C"、The Extrasolar Planets EncyclopaediaNASA Exoplanet Archiveでは "b, c, d" になっています。

その他

CFBDS/CFBDSIR

 "Canada-France Brown Dwarf Survey" あるいは" Canada-France Brown Dwarf Survey InfraRed" の略称です。 「カナダ・フランス褐色矮星探査」といった所です。 この褐色矮星探査で発見された褐色矮星の周りに、惑星が発見されています。

例:
CFBDSIR J145829+101343b
CFBDS 1458b

などがあり、中心星はいずれも褐色矮星です。 命名法は同様に赤経・赤緯の値が使われています。 「CFBDS 1458b」は赤経の最初 4 桁だけの略称になっています。

DENIS

 "Deep Near Infrared Survey (of the Southern Sky) (DENIS)" による観測です。 チリのラ・シヤ天文台で、近赤外領域で南天を観測した際の天体にこの名称が付けられています。

DENIS-P J082303.1-491201b (DE0823-49b)

 中心星の DENIS-P J082303.1-491201 は褐色矮星です。 "DENIS-P" の部分は、"Deep Near-Infrared Survey Provisory designation" から採られています。

プレセペ星団

 2012 年に、プレセペ星団 (Praesepe) という散開星団中に 2 つの系外惑星が発見されました。 プレセペ星団中の恒星には「Pr0241」という形で、"Pr + 数字" という名称が付いています。

 プレセペ星団中に発見された惑星は、

Pr0201b
Pr0211b

 という名前が付けられています。

 この 2 つは、星団中に存在する主系列星のまわりにある系外惑星の初めての発見例です。

 「星団中に存在する惑星」自体はこれらより以前に発見されており、球状星団 M4 の中に存在する「PSR B1620-26b」が初発見です (1993 年)。 「PSR B1620-26b」は名前からも分かるように中心星はパルサー (中性子星) です。 この系は非常に複雑で、中心星は単独のパルサーではなく、「PSR B1620-26」というパルサーと、「WD B1620-26」という白色矮星の連星になっており、その 2 天体から離れた場所を「PSR B1620-26b」が公転しています。

 プレセペ星団は、M44、NGC 2632 などの別の名称も持っています。 また、英語では "Beehive Cluster" という名前で呼ばれています。 Beehive は蜂の巣という意味です。 そのため、プレセペ星団中の惑星の発見を報告する論文は、惑星の名前に付けられる "b" と蜂を意味する "bee" をかけて、"Two ’b’s in the Beehive: The Discovery of the First Hot Jupiters in an Open Cluster" (Quinn et al. 2012) という洒落をきかせたタイトルが付けられています。

Rho Ophiuchi X-ray source

 へびつかい座ロー星 (Rho Ophiuchi, Rho Oph) の付近にある暗黒星雲には、多数の X 線源が発見されています。 "Rho Oph" 付近の "X-ray source" であることから、その X 線源には "ROX" に数字を付けた名称が付けられます。

 一方、その X 線源が放射しているのは X 線に限らないため、他の波長、例えば可視光線で観測出来ることもあります。 ある X 線源が、可視光線での観測での同じ天体と判明した場合、その可視光での天体は「光学対応天体 (optical counterpart)」と呼ばれます。 例えば、「ROX 12」は X 線による観測から付けられた X 線源の名称ですが、可視光での観測でも同定された場合、その光学対応天体は "star" を意味する "s" を ROX の後に付記して「ROXs 12」と という名称が付きます。

 へびつかい座ロー星付近の暗黒星雲内にある X 線源の、光学対応天体に発見された惑星には、

ROXs 12b
ROXs 42Bb

 があります。

SR

 上記のへびつかい座ロー星近傍の暗黒星雲は、活発な星形成が行われている星形成領域 (star-forming region)です。 ガス雲が自己重力で収縮し、原始星となっている天体が複数発見されています。 また、原始星からさらに進化したおうし座T型星 (T Tauri star)も同様に複数発見されています。

 おうし座T型星は原始星とは異なり、天体からの明確な輝線が検出されます。 へびつかい座ロー星近傍の星形成領域を観測し、輝線を発する天体を捉える試みが様々な天文学者によって行われて来ました。 そのうち、Struve と Rudkjobing によって 1949 年に行われた観測によって検出された天体には、2 名の名前からとった "SR" と、通し番号を付けた名前が付けられています。

 これらの天体の周囲に発見された惑星としては、

SR 12(AB)c

 があります。 SR 12 C と表記される場合もあります (発見報告論文での表記)。

 この天体は、SR 12 A と SR 12 B という連星の周りを公転する惑星で、2010 年に直接撮像によって発見されました。 連星の周囲を回る惑星 (周連星惑星) が、直接撮像によって発見された初めての例です。

Upper Scorpius OB association

 重力的には束縛されていないものの、同じ起源を持ち、銀河内を一緒に運動している恒星の集まりを「アソシエーション (stellar association)」と呼びます。 「星群落」や「運動星団」と訳すこともあります。 同じ分子雲から同時期に誕生して散開星団となり、それがバラバラになって行く最中の集まりです。

 スペクトル型が O 型、B 型の大質量星を多数含むアソシエーションは、OB 型アソシエーション(OB association)と呼ばれます。 太陽系に最も近い OB 型アソシエーションは「さそり-ケンタウルス運動星団 (Scorpius–Centaurus Association)」であり、このアソシエーションは "Upper Scorpius"、"Upper Centaurus–Lupus" と "Lower Centaurus–Crux" の 3 つの領域に分けられます。 このうちのUpper Scorpius (Upper Sco.) の中の恒星に惑星が発見されており、

UScoCTIO 108b

 という名前が付いています。 "USco" は "Upper Scorpius" から、"CTIO" は観測に使用した望遠鏡がある、チリの「セロ・トロロ汎米天文台 (Cerro Tololo Inter-American Observatory)」から採られています。

 また、Upper Scorpius 内の天体は、赤経・赤緯を用いた天体名で表すこともあります。 それらの中にも惑星を持つものが発見されており、

例:
USco1602-2401b
USco1612-1800b

 などがあります。 "USco" が "Upper Scorpius"、前半 4 桁が赤経、後半のマイナスと 4 桁が赤緯を示しています。

白色矮星まわりの惑星

 恒星の残骸である中性子星周りの惑星は、パルサー周りの惑星としてパルサータイミング法で発見されていますが、同じく恒星の残骸である白色矮星 (white dwarf) の周りにも惑星程度の質量を持つ天体が発見されています。

 白色矮星の名称は、固有の名称が付いているものや発見プロジェクト名が付いているものなど様々ですが、"white dwarf" の頭文字を採って "WD (赤経)(赤緯)" で表すものもあります。 このような名称が付いている天体の周りに惑星が発見された例には、

WD 0806-661Bb

 があります。

ROSAT

 ROSAT は "Roentgen Satellite" の略称であり、ドイツの X 線天文衛星です。 本家のドイツ語では "Röntgensatellit" という綴りになります。 ROSAT では主に X 線による掃天観測を行っており、X 線で観測出来る天体の全天のカタログを作成しています。 その他、極端紫外線の観測機器も搭載しているため、極端紫外線で観測出来る天体のカタログも作成されています。

 ROSAT で検出されたX線天体は、"ROSAT All-Sky Survey Bright Source Catalogue" (18811 天体収録)、"ROSAT All-Sky Survey Faint Source Catalogue" (105924 天体収録) に収録され、その名前は「1RXS [赤経][赤緯]」で表されます。

 ROSAT のカタログに収録されている天体の周りに惑星が発見された例としては、

1RXS J160929.1-210524b

 があります。 あるいは、赤経のみで「1RXS1609b」とシンプルな書き方になっている場合もあります。 "1RXS" は "1st ROSAT X survey" を意味する文字列、"J" は元期、160929.1 が赤経、-210524 が赤緯です。

 1RXS J160929.1-210524b は、2 番目に赤外線の直接撮像によって発見された系外惑星です。 なお、初めて直接撮像によって発見された系外惑星は「2M1207b」です。 「2M1207b」の中心星「2M1207」は褐色矮星ですが、「1RXS J160929.1-210524b」の中心星「1RXS J160929.1-210524」は前主系列星 (pre-main-sequence star) という、主系列星の直前の段階にある天体です。 そのため、「1RXS J160929.1-210524b」は通常の恒星まわりで初めて直接撮像で発見された惑星ということになります。

 また、同じく ROSAT を用いて、カメレオン座領域にあるカメレオン座暗黒星雲群 (Chamaeleon complex) という領域を観測した際の天体名には別の名称が付けられています。 この暗黒星雲群は活発に星形成が行われている星形成領域 (star forming region) であり、若い恒星や形成過程の原始星などが発見されています。 この領域の天体には、"Chamaeleon, X-ray source, ROSAT" から採って "CHXR + 通し番号" という名前が付けられています。 この天体の中に惑星を持っているものも発見されており、

CHXR 73b

 があります。

LkCa

 分子雲から今まさに恒星が形成されようとしている領域は、星形成領域 (star-forming region) と呼ばれます。 このような領域は星形成過程を観測的に研究する場として重要であるため、古くから様々な観測が行われてきました。

 おうし座 (Taurus) とぎょしゃ座 (Auriga) の境界あたりにある分子雲も星形成領域として有名で、そのうち Taurus molecular cloud 1 (TMC-1) はよく観測されています (Taurus-Auriga star-forming cloud などという呼び方もあります)。 この領域にある若い恒星のうち、カルシウムIIの H, K 線のスペクトル線が検出される天体の観測が、リック天文台 (Lick Observatory) で行われました (論文での報告は 1986 年)。 この論文内で報告された天体は、観測を行った天文台の名称と、カルシウムの輝線であることから取って、「LkCa + 番号」という名称で呼ばれることがあります。 なおこの LkCa 天体は全てで 18 天体存在します。

 LkCa 天体の周りに惑星が存在した場合は,その名称の後に b などをつけて以下のように呼ばれます。

LkCa 15b
LkCa 15c

なお、LkCa 15 は「リック・カルシウム・フィフティーン」と呼ばれるのが一般的です。

 この観測プロジェクトで観測したのは星形成領域にある若い恒星であるため、必然的にその周りに発見される惑星も若いものとなります。 LkCa 15 の周りに発見された 2 つの惑星も、形成直後 (あるいは現在まだ形成途中) の高温の巨大ガス惑星であり、直接撮像によって発見されました。

CVSO

 散開星団は若い恒星からなる集団であり、形成から間もない恒星の特徴を調べる対象として適しています。 25 Ori星団 (25 Orionis, オリオン座の領域にある星団) もその対象の一つです。

 この星団の領域を観測したサーベイプロジェクトとして、CIDA Variability Survey in Ori (CVSO) というものがあります。 日本語で言えば「オリオン座領域での CIDA 変光サーベイ」といったところです。 CIDA というのはは Ventro de Investigaciones De Astronomia という研究機関名の略称であり、CVSO は,CIDA の Venezuela National Astronomical Observatory にある QUEST カメラを用いたサーベイ観測です。 このプロジェクトで観測された恒星には、CVSO 30 といった名称が付与されています (CVSO カタログには合計 262 個の恒星が収録)。 なお、QUEST は Quasar Equatorial Survey Team から取られています。

 CVSO 天体の周りに惑星が存在した場合は,その名称の後に b などをつけて以下のように呼ばれます。

CVSO 30b
CVSO 30c

連星系の惑星の命名

 冒頭に説明した通り、太陽系外惑星の名称は、一般的には発見された順に "[中心星の名称]b"、"[中心星の名称]c" ...と名付けられます。 中心星の名称には、固有の名称や何らかのカタログの名称などの様々な由来があるため、惑星の名称もそれに伴って様々なものがあります。

 太陽系のように恒星が 1 つの系は話は簡単ですが、2 つの天体がお互いの重心を公転している連星 (binary star) は宇宙に普遍的に存在します。 恒星の半数近くは連星であるとも言われています。 また、3 つの天体が重力的に束縛されている三重連星や、4 つの四重連星などの多重連星も発見されています。 連星系においては惑星は形成されないか、形成されたとしても短期間のうちに軌道が乱されて恒星に衝突するか系から弾き出されてしまうため、連星系に惑星が存在する事は稀だと考えられてきました。 しかし近年では、連星系での惑星発見報告も増えて来ており、連星系でも惑星を持ち得るということが分かっています。

 連星系の惑星の命名法も公式な定義があるわけではありませんが、以下のような一定の慣習があります。

連星系の恒星の一つが惑星を持っている場合

 まずは、連星系を成している恒星のうち、ある一つの恒星の周りを惑星が公転している場合です。 2 つの恒星が連星になっている時、それぞれの連星には "A" と "B" の文字を付けて区別します。 その系でより明るいものに "A" が付きます。 例えば、夜空で一番明るい恒星であるシリウスは、実際には肉眼で見える方の主系列星である "シリウスA" と、肉眼では観測出来ない明るさの白色矮星である "シリウスB" の 2 つの連星になっています。 連星系の片方を公転する惑星の場合は、惑星の中心星である恒星の後に "b" を付けたものを惑星の名前とします

 具体的な例は、「HD 142022Ab」などです。 HD 142022 の系は、「HD 142022A」と「HD 142022B」の連星になっています。 そのうち、「HD 142022A」の周囲を公転する惑星が発見されており、それが「HD 142022Ab」です。

 連星が 2 つではなく 3 つ以上であっても同様です。 例えば「グリーゼ667」の系は三重連星となっていて、0.73 太陽質量の K 型主系列星「グリーゼ667A」と、0.69 太陽質量の K 型主系列星「グリーゼ667B」が連星を成しており、A と B のペアから離れた場所を、0.31 太陽質量の M 型主系列星 (赤色矮星) の「グリーゼ667C」が公転しています。 この「グリーゼ667C」の周囲に惑星が発見されており、「グリーゼ667Cb」、「グリーゼ667Cc」と名付けられています。

 なお連星系の片方が惑星を持つ場合であっても、連星の明るい方である "A" が惑星を持っている場合、しばしば "A" は省略されます。 例えば「うしかい座タウ星 (Tau Boötis, Tau Boo)」は、実際には 1.3 太陽質量の「うしかい座タウ星A」と、240 AU ほど離れた位置にある 0.4 太陽質量の「うしかい座タウ星B」の連星になっています。 このうち「うしかい座タウ星A」には惑星が発見されているため、慣習に則れば「うしかい座タウ星Ab」となりますが、"A" を省略してシンプルに「うしかい座タウ星b (Tau Boötis b, Tau Boo b)」と表記される場合がほとんどです。

連星の周囲を惑星が公転している場合

 上に挙げた例は、連星系ではあるものの "惑星にとっての中心星" は一つだけ、という場合でした、 一方、中心星が連星である場合、つまり "惑星にとっての中心星" が二つある系も発見されています。 このような惑星は、連星の周囲を公転している惑星という意味で、「周連星惑星 (circumbinary planet)」と呼ばれます。 フィクションですが、映画「スターウォーズ」に出てくる惑星タトゥイーン (Tatooine)が、タトゥI (Tatoo I) とタトゥII (Tatoo II) の連星周りを公転する、2 つの太陽を持つ周連星惑星として描かれていました。

 周連星惑星の発見例がまだ少なく、周連星惑星の命名についてはばらつきがありますが、最近では「ケプラー16(AB)b」などのように表記する例が多く、このような命名法を標準的な周連星惑星の命名ルールにしようという提案があります。 「ケプラー16A」と「ケプラー16B」の2つのペアの周囲を公転する惑星、という意味です。

 混同の可能性が無い場合は "(AB)" を省略し、単に「ケプラー16b」のように表記する場合もあります。

 「中心星名(AB)b」、という慣習に従っていない例として、「へび座NN星c (NN Serpentis c, NN Ser c)」と「へび座NN星d (NN Serpentis d, NN Ser d)」、「おとめ座DT星c (NY Virginis c, NY Vir c)」などがあります。 これらには "b" の付いた惑星は無く、へび座NN星の連星の周囲を公転する c と d、おとめ座DT星の連星の周りを公転する c、という構成になっています。

その他

 ある観測プロジェクトで惑星が発見された場合は、その中心星はプロジェクト名での通し番号で呼ばれ、惑星にはそれに "b" などを付けることがあるのは既に紹介した通りです。 惑星が発見された場合は、原則として中心星の名前に b 以降の小文字のアルファベットを付けるのがルールであるため、あるプロジェクトで惑星が発見されていた恒星の周りに、別の観測プロジェクトで別の惑星が発見された場合も、先に付けられていた中心星名にアルファベットを付記して惑星名とします。

 例えば既に XO 望遠鏡の項目で紹介した「XO-2b」が良い例です。 XO 望遠鏡を用いたトランジット観測で 2007 年に「XO-2b」が発見されました。 発見当時から「XO-2」は 4600 AU ほど離れた位置に伴星を持っている事が分かっていました。 2007 年に惑星が発見された方は「XO-2A」、あるいは天球上で北の位置にあることから「XO-2N」と呼ばれていましたが、惑星名は単に「XO-2b」と呼ばれていました。 また、伴星の方は「XO-2B」、あるいは天球上で南の位置にあることから「XO-2S」と呼ばれていました。

 しかし 2014 年になって、XO 望遠鏡とは無関係の視線速度法による観測から「XO-2S」にも惑星が二つある事が判明し、それぞれ「XO-2Sb」、「XO-2Sc」と名付けられました。 これらの発見にはXO望遠鏡は関係ありませんが、既に中心星に XO 望遠鏡に因んだ名称が付けられていたため、惑星名には "XO" の文字が付けられています。

 また、それまで単に「XO-2b」と呼ばれていた惑星は、混同を防ぐため「XO-2Nb」という名称に修正されました。

太陽系外惑星の名称の公募

IAU による公式な名称公募の動き

 近年になって、太陽系外惑星に名前をつけようという動きが出て来ています。 名前自体は、上に挙げたように「中心星の名称 + "b"」というものがありますが、このような名前ではなく別途固有の名前を与えるという動きです。

 太陽系外惑星自体に個別の名前を与えようという話は以前からあり、発見に関わった天文学者が非公式に愛称を与えたものも存在します。 例えば初めて発見された系外惑星であるペガスス座51番星b にはベレロフォンという愛称が、HD 209458b にはオシリスという愛称が付けられています。 ただしこれらは非公式に付けられたものであって、一般に用いられる事はほとんどなく、学術論文においてもベレロフォンやオシリスという名称で言及されていることはありません。 日本語版の Wikipedia では、ペガスス座51番星b と HD 209458b のページ名称が「ベレロフォン」や「オシリス」で掲載されていますが、あくまで非公式な愛称に過ぎない事には注意が必要です。

 ある非公式の民間団体が、ケンタウルス座アルファ星Bb の発見後 (ただしこの系外惑星は後に存在が否定) に、この系外惑星の名称を公募して投票で決定しようというキャンペーンを行いました。 このとき、名称の応募や投票には課金が必要となっていました。

 このような動きに対して国際天文学連合 (IAU) は、「Can One Buy the Right to Name a Planet? (惑星を名付ける権利を買うことは出来るか?)」というタイトルでプレスリリースを 2013 年 4 月 12 日に発表しています。 このプレスリリースによると、

Recently, an organisation has invited the public to purchase both nomination proposals for exoplanets, and rights to vote for the suggested names. In return, the purchaser receives a certificate commemorating the validity and credibility of the nomination. Such certificates are misleading, as these campaigns have no bearing on the official naming process — they will not lead to an officially-recognised exoplanet name, despite the price paid or the number of votes accrued.
となっていて、このキャンペーンは公的な命名とは一切関係ないということを明確に警告しています。 (このプレスリリースに関しての日本語解説記事は「国際天文学連合、系外惑星の愛称募集に「待った」 | 系外惑星 | sorae.jp」を参照)

 ただしこのプレスリリースでは、太陽系外惑星に命名しようという考え自体を否定しているわけではなく、社会的な関心を高める事には肯定的です。 系外惑星の命名については IAU 内で議論を進めることが表明されています。

 その後の 2014 年 7 月 9 日になって、IAU は新たなプレスリリースを発表しました。 今回のプレスリリースは「NameExoWorlds: An IAU Worldwide Contest to Name Exoplanets and their Host Stars (NameExoWorlds: 系外惑星とその主星の命名の IAU 国際コンテスト)」というタイトルで、IAU が主体となった公的な系外惑星 (とその主星) の名称の公募についての発表です。

For the first time, in response to the public’s increased interest in being part of discoveries in astronomy, the International Astronomical Union (IAU) is organizing a worldwide contest to give popular names to selected exoplanets along with their host stars. The proposed names will be submitted by astronomy clubs and non-profit organisations interested in astronomy, and votes will be cast by the public from across the world through the web platform NameExoWorlds.
これは、応募や投票に課金が絡んだ民間団体による非公認のキャンペーンとは違い、IAU が主催する公的な系外惑星名の公募キャンペーンです。

 今回の公募では 2008 年までに発見された 305 個の系外惑星が命名の対象となっていて、天文関係の非営利団体であればどこでも応募が可能です。 (この件に関する日本語記事は「系外惑星に名前を付けよう IAUが登録呼びかけ」(AstroArts記事) 参照)

 太陽系外惑星の命名に関する公式な公募はこれが初めてです。 この公募と投票のプロセスを経て、2015 年 8 月には結果が公表される予定となっています。

 現在使われている「HD 209458b」や「ケプラー103b」という一見無機質な名称も、系外惑星を体系的に扱うには便利なものです。 また、発見プロジェクト名が名称に使われている場合は、その系外惑星がどのプロジェクトを通じて発見されたかが一目瞭然であり、発見プロジェクトが分かるという事は発見に用いられた手法もすぐに分かるということにも繋がります。 そのため、研究の分野では今後も無機質な名称が多用される傾向は続くと思われますが、一般社会の関心を高めるという目的においてもこのような系外惑星の名称の公募は今後も続く可能性があります。

IAUによる系外惑星名の決定

 上記のような流れを経て、2015 年 12 月に正式に結果が公表されました。

参考リンク
国際天文学連合「太陽系外惑星命名キャンペーン」一般投票最終結果 | 国立天文台(NAOJ)
NameExoWorlds





参考文献

太陽系外惑星カタログ
The Extrasolar Planets Encyclopaedia
Exoplanet Orbit Database
NASA Exoplanet Archive

2017年12月27日 更新
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