球座標でのベクトル演算子 (旧ページ)

Tweet

はじめに

 大学に入るとベクトル演算をする機会が増えるかと思います。 ベクトルの計算は往々にして煩雑ですが、特に球座標などの曲がった座標系の場合のベクトル演算はさらに煩雑なものになります。 ここでは、3次元球座標における、ベクトルの勾配(gradient)、発散(divergence)、回転(rotation)、ラプラシアンの表式と簡単な導出方法を、備忘録を兼ねてまとめておきたいと思います。
まず先に式を書くと以下の通りになります。
3次元球座標系におけるスカラー関数の勾配は

ベクトル関数の発散は
ベクトル関数の回転は
スカラー関数にラプラシアンを作用させたものは
という形で書くことが出来ます。
ここで、はスカラー関数、はベクトル関数です。

- 導出のための下準備
 - 座標変換
 - 単位ベクトルの変換
 - 偏微分演算子の変換
 - 単位ベクトルの微分
 - 単位ベクトルの外積
- 球座標での勾配(gradient)
- 球座標での発散(divergence)
- 球座標での回転(rotation)
- 球座標でのラプラシアン
- PDFファイル

導出のための下準備

座標変換

 直交座標から球座標への座標変換を行います。 両者の関係は、

逆変換は
と書くことが出来ます。θとφはそれぞれtanの逆関数を使って
と書き表しておきます。

単位ベクトルの変換

 直交座標における単位ベクトルと、球座標における単位ベクトルの関係を導出しておきます。 球座標での単位ベクトルはそれぞれ、

から求めることが出来ます。 分母にあるのは絶対値、すなわちベクトルの大きさです。
この式に、を代入して計算することによって球座標での単位ベクトルと直交座標での単位ベクトルの関係を求めることが出来ます。 それぞれ計算すると、

となります。 行列形式で書き表してやると、

と書くことが出来ます。 行列部分が、直交座標から球座標への座標変換を行うための行列になっています。 この逆変換、つまり行列の逆行列を求めることができれば、球座標から直交座標への座標変換に対応する行列が分かることになります。 一般にある行列の逆行列を求めるのは面倒な操作が必要ですが、この行列の場合は行列式を計算してやると1になることが容易に確かめられます。 行列式が1になる行列の逆行列はもとの行列の転置行列と等しいため、球座標から直交座標への変換の場合は

で表現することが出来ます。 これで、球座標と直交座標の間の変換が求められたことになります。 後の便宜のため、直交座標から球座標への座標変換を行う行列を

と置いておきます。

偏微分演算子の変換

 続いて、直交座標での偏微分演算子と球座標での偏微分演算子の対応関係を求めます。 偏微分演算子には以下の対応関係があります。

この演算子の係数部分を計算します。 の関係式から係数部分は計算出来て、

と書ける事が分かります。 なお、tanの逆関数の微分が

であることを使います。 同じ操作をy,zにもしてやることで、

の関係式を得ることが出来ます。 煩雑な関係式ですが、係数部分を工夫して行列形式でまとめることで次のように書くことが出来ます。

行列部分は、直交座標から極座標への変換行列の逆行列、すなわち行列Aの逆行列になっている事が分かります。 つまり、偏微分演算子の変換も、係数に余計な係数があるのを除けば同じ変換行列で変換することが出来ています。

単位ベクトルの微分

 単位ベクトルを微分した際の関係式を導出しておきます。 この先の導出において、単位ベクトルの微分は非常に重要です。 直交座標では、単位ベクトルで偏微分しても0になりますが、球座標ではそうなりません。 「単位ベクトルの変換」の部分で、球座標での単位ベクトルをを使って表したので、その式をで偏微分します。 偏微分を行ったあとにで書き直してやると、以下の関係式を得ます。

球座標は曲がった座標系であるため、単位ベクトルの微分値は必ずしも0にはならず、このことが球座標系でのベクトル演算の計算を煩雑にする原因となります。

単位ベクトルの外積

 ベクトル関数の回転を求める際には単位ベクトル同士の外積も必要なので先に示しておきます。 球座標の単位ベクトルの外積は

となります。 で右手系になっています。 外積の順序が逆であれば右辺はマイナスが付きます。

球座標での勾配(gradient)

 まず、任意のスカラー関数の勾配(gradient)を導出します。 直交座標での勾配は、直交座標での偏微分演算子と単位ベクトルを用いて

と表すことが出来ます。 右辺の単位ベクトル部分と偏微分演算子の部分を、行列Aとその逆行列を用いて球座標での表現に変えてやると、

となります。 行列Aとその逆行列の積の部分は単位行列になるため、球座標系での勾配は

と書き表す事ができます。 これで、任意のスカラー関数の勾配

が導出出来ました。

 また、この式からスカラー関数を省いて微分ベクトル演算子の形で書くと、

という形で書ける事が分かります。 この表式は、以降の発散や回転の計算の際にも使用します。

球座標での発散(divergence)

 次に、任意のベクトル関数の発散(divergence)を導出します。 ベクトル関数は次のように成分表記することが出来ます。

このベクトルと、先ほど求めたばかりの球座標での微分ベクトル演算子の内積を計算してやる事で、球座標での発散を計算することが出来ます。 計算は以下のようになります。

ここで、球座標系では単位ベクトルの座標微分は必ずしも0にはならない事に注意が必要です。 既に求めた単位ベクトルの座標微分を用いて、各項を慎重に計算していくと、

が得られます。 式自体はこれであっていますが、係数をうまくまとめてやることで、

の式が得られます。 これが球座標でのベクトルの発散です。 係数のまとめ方が分からない場合は、微分を展開してやって、その計算を逆に辿ると良いでしょう。

球座標での回転(rotation)

 続いて、任意のベクトル関数の回転(rotation)を導出します。 先ほど同様に考えると、

となります。 今度は単位ベクトル同士の外積計算が入ってくるため計算は更に煩雑になります。 単位ベクトルの微分、単位ベクトルの外積を間違えないように注意深く計算すると、以下の式が得られます。

こちらも同様にそれぞれ括弧の中をうまくまとめてやると、

が得られます。これが球座標でのベクトルの回転です。

球座標でのラプラシアン

 最後に、球座標でのラプラシアンの表式を導出します。 任意のスカラー関数にラプラシアンを作用させたものは、

と書く事ができます。 ∇はこれまでに求めた球座標での微分ベクトル演算子であり、さらに括弧の中はスカラー関数の「勾配」です。 従って、これまでに求めた関係式を使って、

と書くことが出来ます。 0にならない項のみを書き下すと

となります。 これまで同様、球座標の単位ベクトルの座標微分は値を持つことに注意して計算し、項をまとめると

が得られます。

 また、演算子の部分だけ取り出すと、

となります。 これが球座標でのラプラシアン(ラプラス演算子、ラプラス作用素とも)の表式になります。

 以上の計算はPDF文書にまとめました。 ここに載せたものより少しだけ詳細な計算も書いてあります。
PDFファイル


2017年04月24日 更新
TOPへ戻る