天体の構造を記述する際は、自己重力流体の振る舞いを調べる必要がある場合があります。 例えば恒星も自己重力流体から成る形状のひとつです。 恒星などの球形に近い構造の場合は、球対称だと考えて流体の連続の式や運動方程式を解くことで、密度分布を表す方程式を導出することが出来ます。 これは、状態方程式にポリトロープ関係を仮定した場合はレーン=エムデン方程式として知られているものであり、ポリトロープ球とレーン=エムデン方程式のページで紹介したものです。
ここでは、球対称ではなく、軸対称の円柱状の形状をした自己重力流体の平衡形状について紹介します。
恒星などの天体は円柱状ではありませんが、恒星などを形成する元になっている分子雲では、フィラメント構造と呼ばれる円柱状の構造が存在することが知られています。
目次:
関連ページ:
円柱状自己重力流体の平衡形状の導出
基礎方程式
重力と圧力勾配力が釣り合っている静水圧平衡状態を考えます。 静水圧状態の式は、 ∇Φ=−1ρ∇p

また、重力ポテンシャルと流体の密度分布は、以下のポアソン方程式で表されます。 ∇2Φ=4πGρ
さらに、流体が等温の理想気体であると仮定します。 この場合、状態方程式は次のように書けます。 p=kBTμmρ≡Kρ
ここで、式 (1) と (3) から p を消去すると、 ∇Φ=−1ρ∇Kρ=−∇Klnρ
従って、解くべき方程式は
K∇2lnρ=−4πGρ
変数変換 1
まずは以下のような変数変換を行います。
これらの関係式を用いて、式 (5) を ξ と ψ の式に直していきます。 式 (7) を用いると、式 (5) の左辺は K∇2lnρ=K∇2ln(ρ0e−ψ)=K∇2(lnρ0+lne−ψ)=K∇2(lnρ0−ψ)=−K∇2ψ
ここで、軸対称の円筒座標系であることを考えると、微分演算子は ∇2=1rddr(rddr)
これらの関係を用いると、 ∇2ψ=1rddr(rddrψ)=1αξ1αddξ(αξ1αddξψ)=1α2ξddξ(ξdψdξ)=1α2ξ(dψdξ+ξd2ψdξ2)=1α2(1ξψ′+ψ″)
式 (6) より、r=0 のときは ξ=0 となります。 また式 (7) で r=0 の時に ρ=ρ0 であるためには、r=0 すなわち ξ=0 のときに ψ=0 である必要があります。 さらに、式 (10) は ξψ″+ψ′=ξe−ψ
従ってこれらの条件より、式 (10) の境界条件は、ξ=0 において ψ=ψ′=0 というものになります。
変数変換 2
式 (10) を解くため、ここからさらに以下のような変数変換を行います。
式 (12) より、dt=√2dξξ となるため、 dtdξ=√2ξ となることが分かります。 また、lnξ=t√2 であるため、 ξ=et/√2 となります。 これらの関係式から、 dtdξ=√2e−t/√2
従って、微分演算子の変換は以下のようになります。 ddξ=ddtdtdξ=√2e−t/√2ddt
まず ψ′ を計算すると、以下のようになります。
ψ′=dψdξ=√2e−t/√2ddt(−z+2lnξ)=√2e−t/√2ddt(−z+t√2)=√2e−t/√2(−dzdt+1√2)
積分 1
次に、式 (13) を積分します。 ez の項を右辺に移した 2d2zdt2=−ez
ここで、境界条件を用いて積分定数を決定します。 dzdt を ξ および ψ で表すと、以下のようになります。 dzdt=dzdξdξdt=1√2et/√2ddξ(−ψ+2lnξ)=1√2ξ(−ψ′+2ξ)=−1√2ξψ′+√2
同様に、
ez=e−ψ+2lnξ=e−ψelnξ2=ξ2e−ψ
変数変換 3
式 (15) を解くため、さらに変数変換を行います。
式 (16) より、dzdt=1ydydt となることが分かります。
また、ez=elny=y という関係があります。
これらを用いると、式 (15) は
1ydydt=±(2−y)1/2
積分 2
式 (17) の両辺を積分すると、 ∫dyy(2−y)1/2=±∫dt
式 (18) の左辺は複雑な形をしており、積分を行うのが難しいです。
しかしこの形は、以下のように積分できることが知られています。
∫dxx(2−x)1/2=−√2tanh−1(√1−x2)+const.
これを使って式 (18) の積分を実行すると、 1√2ln|√2−√2−y√2+√2−y|=±(t+C0)
式 (19) の右辺を ξ の式に書き直すと、以下のようになります。 ±(√2t+2lnC2)=±(2lnξ+2lnC2)=±2lnC2ξ=ln(C2ξ)±2
また、 y=ez=e−ψ+2lnξ=e−ψelnξ2=ξ2e−ψ
式 (20) の左辺を展開してまとめると、 e−ψ=8C22(1+C22ξ2)2
従って式 (20) は e−ψ=(1+18ξ2)−2
密度分布の導出
最後に、変数を元に戻します。 式 (7) より、 ψ=−lnρρ0
また、式 (6) と (8) より、 ξ2=1α2r2=4πGρ0Kr2
これを式 (23) に代入して整理すると、以下の式が得られます。
ρ(r)=ρ0[1+(rH0)2]−2
線密度の計算
式 (25) で計算した密度分布を元に、線密度 (line density) を計算します。 これは、線や円柱などの細長い物体の、単位長さあたりの質量を意味します。 密度にもいろいろな種類がありますが、一般に密度と言った場合は体積密度 (volume density) を意味することが多く、単位は SI であれば kgm−3 です。 これは単位体積あたりの質量を意味します。 その他には、単位面積あたりの質量である表面密度 (surface density) があり、こちらの単位は kgm−2 になります。 表面密度は面密度と言われることもあります。 今回求める線密度は、単位は kgm−1 になります。
線密度 ML は、以下のように計算します。 ML=∫∞02πrρ(r)dr
この積分も複雑な形をしていますが、この形の関数は以下のように積分できます。
∫xdx(1+ax2)2=−12a2x2+2a+const.
0 から ∞ までの積分なので、まず 0 から r′ までの定積分を求めた後に r′→∞ とします。 0 から r′ までの定積分は、 ∫r′0rdr[1+(rH0)2]2=[−H402(H20+r2)]r′0=−H402(H20+r′2)+H402H20=12(H201+H20r′−2)
式 (27) を見ると、 ML=ρ0⋅πH20
付録
積分計算その 1
途中で、 ∫dxx(2−x)1/2=−√2tanh−1(√1−x2)+const.
まず、以下のように変形します。 ∫dxx√2−x=∫dx√2x√1−x2
この積分は、 ∫dt1−t2=∫dt(1+t)(1−t)=12∫(11+t+11−t)dt=12(ln|1+t|−ln|1−t|)+const.=12ln1+t1−t+const.=tanh−1t+const.
これを式 (A3) に代入し、さらに式 (A2) を用いて変数を元に戻すと、
∫dxx(2−x)1/2=−√2tanh−1(√1−x2)+const.
積分計算その 2
もう一つの積分計算、 ∫xdx(1+ax2)2=−12a2x2+2a+const.
ここでは t=1+ax2
参考文献
Ostriker et al.(1964) "The Equilibrium of Polytropic and Isothermal Cylinders.", ApJ観山正見・野本憲一・二間瀬敏史編「天体物理学の基礎I」(日本評論社)
2018年07月12日