天体の見かけの等級と絶対等級

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 夜空の星の明るさを示す指標には、等級と言うものがあります。 夜空の中でも特に明るい星は 1 等星と呼ばれますが、この数字が小さいほど明るい星、大きいほど暗い星である事を表します。 また、等級にも定義によって様々な種類があり、地球から見た明るさを示すものとしては見かけの等級、距離によらず天体の明るさを比較する為の指標としての絶対等級などがあります。 ここでは、天体の見かけの等級と絶対等級について簡単に紹介します。

目次:

見かけの等級

見かけの等級とは

 見かけの等級 (apparent magnitude) とは、文字の通り地球から見た時の天体の見かけの明るさを示す指標です。 本来は同じ明るさの天体であっても、近距離にあるものの見かけの明るさは明るく、遠方にあるものは暗く見えます。 また近距離であっても非常に暗い天体や、遠距離でも非常に明るい場合は、遠距離にある天体の方が明るく見える事があります。 このような、見かけの明るさの指標となるのが見かけの等級です。

 現在では天体の明るさは定量的な評価が可能になっていますが、昔は目で見た時の明るさの違いという大まかな違いでの評価しか出来ませんでした。 そこで、夜空に見える恒星のうち最も明るいものを 1 等星、肉眼で観測出来る最も暗いものを 6 等星とし、1〜6 の 6 段階で分類されるようになりました。 この分類方法を考案したのは古代ギリシアの天文学者であったヒッパルコスで、まだ紀元前のことです。

 その後 16 世紀になって望遠鏡が開発されると、肉眼では見えない恒星も発見出来るようになり、より暗い恒星には 7 等星、8 等星といった等級が与えられるようになりましたが、この段階では統一された基準は設けられていませんでした。 また、等級の値も整数のみで与えられるものでした。

 現在まで使われている等級の定義を決定したのは、イギリスの天文学者のノーマン・ロバート・ポグソン (Norman Robert Pogson) です。 ポグソンが等級の定義を決めるより前に、同じくイギリスの天文学者であるジョン・ハーシェルによって、1 等星の明るさが 6 等星の明るさのおよそ 100 倍であることが示されていました。 (なおジョン・ハーシェルは、天王星とその衛星の発見や望遠鏡製作等で多数の業績を持つ天文学者、ウィリアム・ハーシェルの息子です。)

 ポグソンはジョン・ハーシェルの研究結果を元にし、1 等星の明るさは 6 等星の 100 倍であり、1 等級ごとの明るさの違いは 1001/5 倍であると定義しました。 これは 1856 年のことです。 1001/5 = 2.511886432... となるため、1 等級ごとの違いはおよそ 2.512 倍に相当するということになります。

 このポグソンによる等級の定義によって、等級は定量的に評価出来るようになり、1〜6 以外の等級、例えば 6 より大きな等級や 0, 負の値の等級、整数値の間の小数値を持つ等級も表すことができるようになりました。 また、見かけの等級の比較の際にしばしば出てくる数値である 1001/5 の事は、ポグソンに因んでポグソン比 (Pogson's ratio) と呼ばれます。

見かけの等級の比較 - ポグソンの式

 ポグソンが等級の定義を定めた事で、天体の見かけの明るさから等級を計算出来るようになりました。 ここでは、等級はどのように決まるか見て行きます。

 ポグソンの定義では、等級が 1 異なるごとに明るさは 1001/5 倍異なるのでした。 等級が 2 異なると、明るさは \(\left(100^{1/5}\right)^{2}\) 倍、すなわち 1002/5 倍異なります。 同様に考えると、等級が \(x\) 異なる場合、明るさは \(100^{x/5}\) 異なることになります。 1 等星と 6 等星の等級の違いは 6 - 1 = 5 等級になり、明るさの違いは 1005/5 = 1001 = 100 倍となってちゃんと定義通りになっています。

 ここで、星 1 と星 2 の明るさを比較することを考えます。 星 1 からのフラックスを \(F_{1}\)、星 2 からのフラックスを \(F_{2}\) とします。 このフラックスというのは、見かけの明るさに対応するものです。 また、星 1 の等級を \(m_{1}\) 等、星 2 の等級を \(m_{2}\) 等とします。 この場合、星 1 と星 2 の等級差は \(m_{2}-m_{1}\) なので、明るさの差は \(\displaystyle{\left(100^{1/5}\right)^{\left(m_{2}-m_{1}\right)}}\) となります。 これは書き換えると \(\displaystyle{100^{\left(m_{2}-m_{1}\right)/5}}\) となります。

 一方、フラックスからの明るさの比は \(F_{1}/F_{2}\) と書くことができるので、 \begin{align*} \frac{F_{1}}{F_{2}}=100^{\left(m_{2}-m_{1}\right)/5} \end{align*} となることが分かります。 この式の両辺の常用対数をとると、 \begin{align*} \log_{10}\left(\frac{F_{1}}{F_{2}}\right)=\log_{10}100^{\left(m_{2}-m_{1}\right)/5} \end{align*} になります。 常用対数というのは、10 を底とした対数の事です。 常用対数は、混同の恐れが無い場合は底の 10 を省略して書く場合が多いです[参考]。 ここでは省略せずに書く事にします。

 対数の指数と係数のルールより、対数をとった式の右辺は、 \begin{align*} \log_{10}100^{\left(m_{2}-m_{1}\right)/5}=\frac{1}{5}\log_{10}100=\frac{2}{5}\left(m_{2}-m_{1}\right) \end{align*} と変形出来ます。 よって式は \begin{align*} m_{2}-m_{1}=\frac{5}{2}\log_{10}\left(\frac{F_{1}}{F_{2}}\right) \end{align*} と変形でき、 \begin{align*} m_{1}-m_{2}=-\frac{5}{2}\log_{10}\left(\frac{F_{1}}{F_{2}}\right) \end{align*} となります。 右辺を書き換えると \begin{align*} m_{1}-m_{2}&=-\frac{5}{2}\log_{10}\left(\frac{F_{1}}{F_{2}}\right)\\ &=-2.5\log_{10}\left(\frac{F_{1}}{F_{2}}\right) \end{align*} です。 このように、2 つの天体の等級と明るさを関係付ける式を導出することができました。

星 1 の等級を \(m_{1}\)、明るさ (フラックス) を \(F_{1}\)、星 2 の等級を \(m_{2}\)、明るさ (フラックス) を \(F_{2}\) とした場合、以下のような関係式が成り立つ。 \begin{align*} m_{1}-m_{2}=-2.5\log_{10}\left(\frac{F_{1}}{F_{2}}\right) \end{align*}

 この関係式は、しばしばポグソンの式と呼ばれます。 表記には揺れがあるようで、ポグソンの公式、ポグソンの方程式、ポグソンの法則などと書かれているものもありますが、どれも指しているものは同じです。 理科年表では「ポグソンの式」と表記されていますが、インターネット上での検索では「ポグソンの公式」の方が多くヒットするようです。 ポグソンによって導入されたこの式を用いることによって、等級は天体の明るさを表す定量的な指標となりました。

 上記の式は、右辺の対数部分を分解して \begin{align*} m_{1}-m_{2}=-2.5\left(\log_{10}F_{1}-\log_{10}F_{2}\right) \end{align*} と表記される場合もありますが、見かけの等級の差と、明るさの比を表す時は分解しない状態の式の方が使いやすいです。

見かけの等級の値

 ポグソンの式の導入によって等級の概念は曖昧なものでは無くなりました。 しかし上記のポグソンの式のみでは、2 つの天体の等級の差 (\(m_{1}-m_{2}\))は決まりますが、ある特定の天体の見かけの等級の値を決定することは出来ていません。

 等級の値を決めるには、何らかの基準が必要です。 そこで、(見かけの) 等級の基準となる星を選び、その等級を \(m_{0}\) と定めます。 また、その星の明るさ (フラックス) の測定値を \(F_{0}\) とします。 この基準の星と比較した場合、星 1 と基準の星の等級差は \begin{align*} m_{1}-m_{0}=-2.5\log_{10}\left(\frac{F_{1}}{F_{0}}\right) \end{align*} から計算出来ます。 従って、星 1 の等級の値も定まります。

 こうなると、基準の星をどうするかが重要になって来ます。 ポグソンが 1856 年に等級の定義を定めた際は、北極星の見かけの等級をちょうど 2 と定め、北極星を基準に等級を決定していました。 つまり、\(F_{0}\) には北極星の明るさ (フラックス)、\(m_{0}\) には 2 が入り、ある星からのフラックス \(F_{1}\) の測定値を代入することによってその星の等級 \(m_{1}\) が計算出来ます。

 しかしその後、北極星は変光星であることが判明しました。 北極星が変光星の可能性があるという疑いは 1852 年ごろに出ていましたが、間違いなく変光星であるという事実はアイナー・ヘルツシュプルング (Ejnar Hertzsprung )によって 1911 年に明らかにされました。 現在では、北極星はケフェイド変光星というタイプの変光星であることがわかっています。 北極星の変更度合いは時期によって異なり、1963 年以前の観測では等級にして 0.1 の振幅を持つ変動があり、またそれは徐々に小さくなっていました。 1966 年以降に変更幅は急速に小さくなり、現在までに多少の変動はありつつ 0.05 等級の振幅で変動をしています。

 いずれにせよ、光度に変動がある恒星を明るさの基準として用いるのは都合が悪いため、北極星は等級を評価する際の基準としては使われなくなりました。 その後は、こぐま座ラムダ星を 6.5 等と定義するもの、北極星付近の 96 個の恒星を基準として等級を定めるものなど、複数の定義の変遷がありました。 現在の等級の基準は 1953 年に定められたもので、複数の恒星を特定の波長のフィルターを通して測光した場合の平均値を元に定められています。

 また業界によって異なる定義を採用している場合もあり、例えば赤外線領域での観測の際には別の定義が多く用いられています。 とにかく、現在はある特定の恒星を等級の基準として扱うのではなく、複数の波長域で複数の標準星となる恒星の観測値を元にして等級の原点が決定されているという点においては同じです。 実際の測光の際には、定義にある複数の基準星と、明るさを比較したい観測対象の天体が同一視野に見えるという保証はないため、測定の為の二次標準星も多数存在します。

絶対等級

絶対等級とは

 天体の見かけの明るさの指標として見かけの等級の概念が導入され、定量的な評価方法としてポグソンの考案した定義が用いられているのは上で紹介した通りです。 見かけの等級では、その天体の本来放っている光量やその天体までの距離などの要素は考えず、単純に地球から見た時の明るさを評価していました。 しかし、地球から天体までの距離によらない明るさの比較をしたい場合は、天体までの距離と天体の明るさの違いが混ざり合った値である見かけの等級をそのまま使うことはできません。

 そこで使われるのが絶対等級 (absolute magnitude) です。 天体の絶対等級の定義は、天体を 10 pc の距離から見た時の等級です。 pc (パーセク, parsec) については後で紹介します。

 つまり、天体を 10 pc という基準の距離だけ離れて見た場合に、その天体の等級の値はどうなるかを比較して、恒星本来の明るさを評価しようという指標です。 見かけの等級の場合は、近くにいるため明るい(等級は小さい)のか、天体自体が明るいため明るいのかの区別は出来ませんでしたが、絶対等級の場合は基準の距離を定めて比較する指標であるため、距離による明るさの変化とは関係のない値となります。

パーセク

 ここで pc (パーセク, parsec) は天文学で頻繁に用いられる距離の単位であり、
1 pc = 3.26156...光年 = 3.08568..×1016 m
となります。

 ずいぶんと中途半端な値だと思うかもしれませんが、パーセクにもちゃんとした定義があります。 それは、年周視差が 1 秒角となるような距離を 1 pcと定義する、というものです。 年周視差 (stellar parallax, annual parallax) とは、地球の公転による位置変化によって天体の見かけの位置が変化する事や、あるいはその変化量のことを指します。 変化量は角度で表しますが、年周視差は非常に小さく、度を用いて表すのは不便であるため、度の 3600 分の 1 である秒を用います。 時間の秒との混同を避けるため秒角と表す事もあります。

 年周視差の角度は、地球・太陽・天体の直角三角形を考えたときに、天体が頂点となっている方の角度に相当します。 この角度を \(\theta\) とし、太陽から天体までの距離を \(d\) をすると、この直角三角形には以下の関係式が成り立ちます。 \begin{align*} \tan\theta=\frac{1\,{\rm AU}}{d} \end{align*}

 この式を \(d\) の式に直すと、 \begin{align*} d=\frac{1\,{\rm AU}}{\tan\theta} \end{align*} になります。 ここで、定義より \(\theta\) = 1 秒角となるような \(d\) が 1 pc なので、\(\theta\) に 1 秒角を代入します。 \begin{align*} 1\,[{\rm arcsecond}]=\frac{1}{3600}\,[{\rm degree}]=\frac{1}{3600}\frac{2\pi}{360}\,[{\rm rad}] \end{align*} である事に注意して代入すると、 d = 206264.8 AU になります。 すなわち、1 pc = 206264.8 AU です。 光年を用いて表せば、1 pc = 3.261564 光年となります。

 この基準は、視差を意味する "parallax" と、角度の単位でもある秒 (あるいは秒角) を意味する "second" から、"parsec" という名前が付けられています。

 パーセクは一般にはあまり馴染みの無い距離の単位です。 しかしパーセクは観測と直接結びついた距離の指標であり、年周視差が測定出来る天体までの距離は、年周視差から直接計算することができます。 学術的な場面では距離の単位としては光年よりもパーセクの方が好まれる傾向にあります。

絶対等級と見かけの等級の関係式

 ここでは、天体の見かけの等級とその天体までの距離から、その天体の絶対等級を計算するための関係式を導出します。

 ある天体の光度を \(L_{*}\) とすると、その天体から \(r\) だけ離れた位置でのフラックスは \begin{align*} F=\frac{L_{*}}{4\pi r^{2}} \end{align*} となります。 天体からの光は全方向に放射されていくため、その天体までの距離の 2 乗に反比例してフラックスは減って行きます。

 この式から、天体からの距離 \(r_{1}\) でのフラックス \(F_{1}\) は \begin{align*} F_{1}=\frac{L_{*}}{4\pi r_{1}^{2}} \end{align*} また天体からの距離 \(r_{2}\) でのフラックス \(F_{2}\) は \begin{align*} F_{2}=\frac{L_{*}}{4\pi r_{2}^{2}} \end{align*} となります。 そのため、フラックスの比は \begin{align*} \frac{F_{1}}{F_{2}}=\frac{L_{*}}{4\pi r_{1}^{2}}\frac{4\pi r_{2}^{2}}{L_{*}}=\left(\frac{r_{2}}{r_{1}}\right)^{2} \end{align*} と書けます。

 絶対等級の基準になる距離は、天体から 10 pc の距離でした。 そのため、\(r_{1}\) = 10 pcとすると、\(F_{1}\) は天体から 10 pc 離れた位置でのフラックスを意味します。 また、\(r_{2}\) を地球から天体までの距離 \(d\) [pc]とすると、\(F_{2}\) は地球でのフラックス (地球で観測出来るその天体からのフラックス) になります。 従って、フラックスの比は \begin{align*} \frac{F_{1}}{F_{2}}=\left(\frac{d\,{\rm pc}}{10\,{\rm pc}}\right)^{2} \end{align*} となります。

 ここで、見かけの等級の違いを表すポグソンの式 \begin{align*} m_{1}-m_{2}=-2.5\log_{10}\left(\frac{F_{1}}{F_{2}}\right) \end{align*} を用います。 \(F_{1}\) は天体から絶対等級の基準である 10 pc だけ離れた位置でのフラックスであるため、これに対応する等級 \(m_{1}\) を、絶対等級 \(M\) と置き換えます。 また、\(F_{2}\) は地球でのフラックスであるため、これに対応する等級 \(m_{2}\) は見かけの等級に相当します。 これを \(m\) と置きます。 これらを式に代入し、またフラックスの比を右辺に代入すると、式は以下のようになります。 \begin{align*} M-m=-2.5\log_{10}\left(\frac{d}{10}\right)^{2} \end{align*} ここで \(d\) は地球から天体までの距離で、単位はパーセクです。

 この式の右辺は、以下のように変形出来ます。 \begin{align*} -2.5\log_{10}\left(\frac{d}{10}\right)^{2}&=-5\log\left(\frac{d}{10}\right)\\ &=-5\left(\log_{10}d-\log_{10}10\right)\\ &=-5\left(\log_{10}d-1\right)\\ &=5-5\log_{10}d \end{align*} 従って、式は \begin{align*} M-m=5-5\log_{10}d \end{align*} となり、絶対等級 \(M\) は \begin{align*} M=m+5-5\log_{10}d \end{align*} という式で計算出来ることになります。

 天体の絶対等級 \(M\) は以下の式で表される。 \begin{align*} M=m+5-5\log_{10}d \end{align*} ただし、\(m\) は見かけの等級、\(d\) は地球から天体までの距離で、単位はパーセクとする。

 この式を用いて、天体の見かけの等級と、その天体までの距離から絶対等級を計算することができます。

等級の計算例

 ここでは、見かけの等級と明るさの関係や、絶対等級と距離の関係などについての具体的な計算例を紹介します。 ここまでで計算したように、天体の明るさと等級の間には \begin{align} m_{1}-m_{2}=-2.5\log_{10}\left(\frac{F_{1}}{F_{2}}\right) \label{eq1} \end{align} という関係式(ポグソンの式)が成り立ち、また見かけの等級と絶対等級の間には \begin{align} M=m+5-5\log_{10}d \label{eq2} \end{align} という関係が成り立つのでした。

例題 1:1 等星は 4 等星の何倍明るいか?

 ここで、\(m_{1}=1\)、\(m_{2}=4\) とします。 1 等星の明るさ (フラックス) が \(F_{1}\)、4 等星の明るさが \(F_{2}\) ということになります。 式 \eqref{eq1}に代入すると、 \begin{align*} 1-4=-2.5\log_{10}\left(\frac{F_{1}}{F_{2}}\right) \end{align*} となり、整理すると \begin{align*} \log_{10}\left(\frac{F_{1}}{F_{2}}\right)=1.2 \end{align*} となります。 対数を外すと \begin{align*} \frac{F_{1}}{F_{2}}=10^{1.2}=15.84893192... \end{align*} となります。 \(F_{1}\) は \(F_{2}\) よりもおよそ 15.85 倍大きいということなので、1 等星は 4 等星のおよそ 15.85 倍明るいということが分かります。


 当然ですが、代入する方を逆にしても同じ結果が得られます。 先ほどとは逆に、\(m_{1}\) = 4、\(m_{2}\) = 1としてみます。 この時は、4 等星の明るさ (フラックス) が \(F_{1}\)、1 等星の明るさが \(F_{2}\) ということになります。 同様に代入して計算すると、 \begin{align*} \frac{F_{1}}{F_{2}}=10^{-1.2} \end{align*} となります。 両辺の逆数をとってやると、 \begin{align*} \frac{F_{2}}{F_{1}}=10^{1.2}=15.84893192... \end{align*} となり、同じく、1 等星は 4 等星のおよそ 15.85 倍明るいという結果が得られます。

例題 2:シリウス (-1.47 等) は北極星 (2.00 等) の何倍明るいか?

 シリウスの等級を \(m_{1}=-1.47\)、北極星の等級を \(m_{2}=2.00\) とします。 この場合、シリウスの明るさ (フラックス) が \(F_{1}\)、北極星の明るさが \(F_{2}\) ということになります。 例題 1 と同様式 \eqref{eq1} に代入して整理すると \begin{align*} \log_{10}\left(\frac{F_{1}}{F_{2}}\right)=1.388 \end{align*} となり、両辺の対数を外せば \begin{align*} \frac{F_{1}}{F_{2}}=10^{1.388}=24.43430553... \end{align*} となります。 よって、シリウスは北極星のおよそ 24.43 倍明るいということが分かります。

例題 3:見かけの明るさが 1000 倍違う星の等級差はいくらになるか?

 明るい方の星のフラックスを \(F_{1}\)、暗い方の星のフラックスを \(F_{2}\) とすると、2 つの星の明るさが 1000 倍違うということは \(F_{1}/F_{2}=1000\) であるということになります。 これを式 \eqref{eq1} に代入すると、 \begin{align*} m_{1}-m_{2}&=-2.5\log_{10}1000\\ &=-7.5 \end{align*} となります。 単に等級の差を聞いているので絶対値を考えれば良く、見かけの明るさが 1000 倍違う星の等級差は 7.5 であると言うことになります。

 今回の問題では 2 つの星の明るさの比しか与えられていないため、等級の差を求めることはできますが、それぞれの等級を求めることは出来ません。

例題 4:見かけの等級が 2.00、地球からの距離が 100 pc である星の絶対等級は?

 見かけの等級と絶対等級の問題であるため、式 \eqref{eq2} を使います。 \(m = 2.00\)、\(d = 100\) pc を代入すると、絶対等級 \(M\) は \begin{align*} M=2+5-5\log_{10}100=-3 \end{align*} となります。 従って、見かけの等級が 2.00、地球からの距離が 100 pc である星の絶対等級は -3.00 であるということになります。

例題 5:シリウスの見かけの等級は -1.47、地球からの距離は 2.64 pc (8.60 光年) である。 また、デネブの見かけの等級は 1.25、地球からの距離は 802 pc (2616 光年) である。
(1) それぞれの星の絶対等級は?
(2) 見かけの等級で比較した場合、どちらが何倍明るいか?
(3) 絶対等級で比較した場合、どちらが何倍明るいか?

(1)
 まずはシリウスの絶対等級を求めます。 見かけの等級と距離が分かっているので、式 \eqref{eq2} に値を代入すると、 \begin{align*} M=-1.47+5-5\log_{10}2.64=1.421980366... \end{align*} となります。 よって、シリウスの絶対等級は 1.42 です。

 続いてデネブも同様に式 \eqref{eq2} に値を代入すると、 \begin{align*} M=-1.25+5-5\log_{10}802=-8.270871841... \end{align*} となります。 よって、デネブの絶対等級は -8.27 です。

(2)
 次に、見かけの等級での明るさを比較します。 シリウスの見かけの等級を \(m_{1}\)、デネブの見かけの等級を \(m_{2}\) として式 \eqref{eq1} に値を代入すると、 \begin{align*} -1.47-1.25=-2.5\log_{10}\left(\frac{F_{1}}{F_{2}}\right) \end{align*} となり、これを整理すると \begin{align*} \log_{10}\left(\frac{F_{1}}{F_{2}}\right)=1.088 \end{align*} となります。 対数を外すと \begin{align*} \frac{F_{1}}{F_{2}}=10^{1.088}=12.24616199... \end{align*} となるため、見かけの明るさを比較した場合はシリウスはデネブのおよそ 12.25 倍明るいということになります。

(3)
 最後に、絶対等級での明るさを比較します。 ここで扱っているのは絶対等級ですが、等級間の明るさの比較をしたいので式 \eqref{eq1} を使います。 シリウスの絶対等級を \(m_{1}\)、デネブの絶対等級を \(m_{2}\) として式 \eqref{eq1} に値を代入すると、 \begin{align*} -1.47-\left(-8.27\right)=-2.5\log_{10}\left(\frac{F_{1}}{F_{2}}\right) \end{align*} となり、整理すると \begin{align*} \log_{10}\left(\frac{F_{1}}{F_{2}}\right)=-3.876 \end{align*} となります。 対数を外すと \begin{align*} \frac{F_{1}}{F_{2}}=10^{-3.876} \end{align*} となり、逆数をとると \begin{align*} \frac{F_{2}}{F_{1}}=10^{3.876}=7516.22894... \end{align*} となります。 よって、絶対等級で比較した場合、つまり同じ距離から 2 つの星を見た場合の明るさで比較した場合は、デネブはシリウスのおよそ 7516 倍明るいということになります。

 シリウスは夜空で一番明るく見える恒星ですが、これは太陽系に比較的近い位置にあることが主な要因です。 実際の明るさとしてはデネブのように、シリウスの数千倍以上の明るさを持つ恒星も多数存在しますが、太陽系からの距離が離れているために見かけの明るさとしてはシリウスよりも暗いものばかりになります。

例題 6:太陽の見かけの等級は -26.75 である。太陽の絶対等級はいくらになるか?

 太陽と地球の距離は 1 AU です。 見かけの等級と絶対等級の関係であるため式 \eqref{eq2} を使うことになりますが、式 \eqref{eq2} での距離 \(d\) の単位は pc であるため、1 AU を pc に直す必要があります。 パーセクの項で扱ったように、1 pc = 206264.8 AU という関係があります。 よって、太陽と地球の距離を pc で表すと、1/206264.8 pc となることになります。 これを式 \eqref{eq2} に代入すると、 \begin{align*} M=-26.75+5-5\log_{10}\frac{1}{206264.8}=4.8221256... \end{align*} となるため、太陽の絶対等級は 4.82 であるということが分かります。

 太陽は他の恒星に比べると遥かに近くにあるため見かけの等級は非常に小さな値になりますが、絶対等級に直すとそれほど明るくないことが分かります。

例題 7:超新星 SN 1987A は、見かけの最大等級が 2.90、距離は 51.5 kpc (16万8000 光年)であった。 また、超新星 SN 1054 は見かけの最大等級が -6.00、距離は 2.00 kpc (6500 光年) であった。 この 2 つの超新星の絶対等級はそれぞれいくらになるか?

 見かけの等級や絶対等級は恒星に限らず、銀河などの天体や、新星や超新星といった突発天体に対しても同じように適用することができます。 まず SN 1987A について、式 \eqref{eq2} から絶対等級を求めると、 \begin{align*} M=2.90+5-5\log_{10}51500=-15.65903615... \end{align*} となります。 よって、SN 1987A の絶対等級はおよそ -15.66 となります。

 同様に SN 1054 の値を代入して計算すると、 \begin{align*} M=-6.00+5-5\log_{10}2000=-17.50514998... \end{align*} となるため、SN 1054 の絶対等級はおよそ -17.51 となります。

例題 8:ベテルギウスまでの距離は 197 pc (643 光年) である。
(1) ベテルギウスが SN 1987A と同程度の超新星を起こした場合、地球からは何等級で見えるか?
(2) ベテルギウスが SN 1054 と同程度の超新星を起こした場合、地球からは何等級で見えるか?

(1)
 まずは SN 1987A と同じ明るさの超新星になった場合を考えます。 式 \eqref{eq2} において、絶対等級 \(M\) に -15.66、距離 \(d\) に 197 pc を代入して、見かけの等級 \(m\) を求めれば良いということになります。 それぞれ代入すると、 \begin{align*} -15.66=m+5-5\log_{10}197 \end{align*} となるため、 \(m\) について解くと \begin{align*} m=-9.187668869... \end{align*} となります。 よって、この時の見かけの等級はおよそ -9.19 です。

(2)
 次に SN 1054 と同じ明るさの超新星になった場合を考えます。 同様に式 \eqref{eq2} において、絶対等級 \(M\) に -17.51、距離 \(d\) に 197 pc を代入すると、 \begin{align*} -17.51=m+5-5\log_{10}197 \end{align*} となり、\(m\) について解くと \begin{align*} m=-11.03766887... \end{align*} となります。 よって、この時の見かけの等級はおよそ -11.04 です。

 超新星には、超新星を起こした天体の特徴によっていくつか種類がありますが、SN 1987A と SN 1054 は両方とも II 型超新星 (type-II supernova) と呼ばれるタイプの超新星だと考えられています (II 型の中にもさらに分類はあります)。 両者の絶対等級を比較すると SN 1987A がやや暗いですが、SN 1987A は他の同タイプの超新星と比べるとやや暗いことが分かっています。 これは、超新星を起こす直前の恒星が半径が比較的小さい青色超巨星だったことが原因だと考えられています。

 一方、ベテルギウスもいずれ II 型超新星を起こします。 ベテルギウスは大きく膨張した赤色超巨星であるため、SN 1987A よりは明るい、他の標準的な II 型超新星と同程度の明るさになることが期待されます (実際には発生してみないと分からない部分もあります)。 SN 1054 と同程度の明るさになった場合は、上での計算の通り、地球から見た時の等級は -11 等程度になると予想されています。

 参考として、満月の等級は -12.7、半月の時の等級はおよそ -10 等です。 従って、-11 等というのは半月よりは明るく満月よりは暗い程度ということになります。 しばしば、ベテルギウスが超新星を起こした時の明るさは、半月より明るく満月よりは暗い程度と言われることがありますが、これはこれまでの同じタイプの超新星の絶対等級と、ベテルギウスまでの距離からおおまかに計算することができます。





脚注

 10 を底とする対数は常用対数 (common logarithm) で、しばしば底の 10 を省略して \(\log x\) と表記されます。 常用対数であることを区別する場合は底の 10 を表記するか、あるいは \({\rm Log}\,x\) と L を大文字で書く場合もあります。

 一方、\(e\) (ネイピア数) を底とする対数 \(\log_{e}x\) は自然対数 (natural logarithm) と呼ばれ、自然科学では頻出します。 自然対数を \(\log x\) と底を省略して表記する場合もありますが、常用対数との混同を避けるため、多くの場合は \(\ln x\) という表記が用いられます。

 また、2 を底とする対数 \(\log_{2}x\) は二進対数 (binary logarithm) と呼ばれます。 こちらは情報科学分野でしばしば出てきます。 二進対数も \(\log x\) という表記を用いる場合もありますが、同じく混同を避ける為に \({\rm lb}\,x\) という表記をする場合があります。

参考文献

理科年表

2015年07月18日
2017年06月05日 更新
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